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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 前編

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7.『Ce travail est son gagne-pain』(その仕事は彼の生活する為の手段だ)


カジノ近くのレストランで夕食後(代金はカミュ持ち)、シュラとカミュはいよいよカジノに入場した。
まず最初に彼等が向かったのは一番有名なグラン・カジノではなく、やや庶民的なサン・カジノ。
シュラのせこいというか賢い点は、まず最初に確実に稼げるスロット(光速拳を見切る視力を持つため、外しがない)で、1ユーロを3ヶ月分の生活費程に増やしたところである。
スロットの排出口から山のように溢れ出るコイン。すぐさまそれを換金し、自分の財布に収める。
「カミュ、借りていた列車代とさっきの夕食代返すぞ」
と、開始10分程で交通費と食事代を綺麗に返してしまった。
カミュはシュラのあまりの業師ぶりにポカーンと口を開けていたが、そもそもスロットのスピードなど聖闘士にしてみれば蠅がたかるようなものだ。
苦労も何もない。
大儲けして鼻歌でも歌いそうなシュラ。いつも沈着冷静なシュラがこんなにうきうきしているのは珍しい。
「さてと、こんなものか」
財布の中にぎっしりと札束をつめたシュラは、後ろに控えていたカミュに目配せする。
「そろそろここから出るぞ。少々稼ぎ過ぎたようでな、周りの目が痛い」
「……当たり前だ」
カジノ内にいる警備員や係員の視線が、時間を追うに従って刺々しくなっているのにカミュは気付いていた。
1ユーロを何倍にも増やしているのである。
イカサマを使っていると思われても仕方ないし、使っていないとしても、カジノからしてみればあまりいい気分はしない。
カジノにとっていいお客というのは、ギャンブルにいくらでも金を注ぎ込む客なのだから。
入場無料の軽い感じのサン・カジノから去った二人は、いよいよモナコカジノの代名詞、グラン・カジノへ向かう。
グラン・カジノはミスティも注意していたが、18歳未満は入場不可な上、パスポートがないと中に入る事もできず、おまけにドレスコードがあるため夜間は見窄らしい服装では足を踏み入れる事もできない。
「Vous avez le passeport?」(パスポートはお持ちですか?)
「Le voila」(これだ)
エントランスでパスポートを掲示し、入場料10ユーロを払ってカジノに入場する。
パリのオペラ座を設計した建築家、シャルル・ガルニエによって建てられた宮殿のようなこの建物は博物館級の価値があり、賭け事をしなくとも是非とも見学したいスポットである。
大理石のエントランス・ホール、オニキスでつくられた28本の柱、壁面の彫刻やフレスコ画、ステンドグラス、クリスタルのシャンデリア……ベル・エポック調のこの豪華な建物の中では、毎晩小国の1年間の国家予算程の金額が動いている。
「ほぉ……」
初めてグラン・カジノを訪れたカミュは、感嘆の声をあげた。
華麗、壮麗、きらびやかで華やかで、やや淫靡な雰囲気のある夜の宮殿。
聖域の簡素な建物に慣れたカミュには、非常に刺激的であった。
しかしとある事に思い至り、ルーレットのテーブルにつこうとするシュラにこう尋ねる。
「シュラ、スロットで生活費は賄ったのだから、もうカジノはよいのではないのか?」
ところが。くわえタバコのシュラは、心外と言わんばかりの表情でこう言い返す。
「何を言う。モナコと言ったら、グラン・カジノでルーレットだろうが。何のためにスロットで馬鹿稼ぎしたと思っているのだ?」
この時カミュは悟った。シュラの「カジノで生活費を稼ぐ」というのはあくまでも建て前であると。
確かに、生活費を稼ぐためモナコを訪れたのかも知れない。
だが、彼は稼ぐ以上にギャンブルという行為自体を非常に楽しんでいるようなのだ。
「……もしかしたら、私はシュラにはめられたのだろうか?」
そう思えない事もない。
悩むカミュをよそ目に、シュラはプカーっとタバコをふかしフレンチ・ルーレットの台につく。
カジノテーブルには、ドレスアップした男女がコインやチップを目の前に並べてルーレットの開始を待っていた。
クルーピエ(フランス語でディーラー)がにこやかに客達に微笑んだ。
彼の手がルーレットにかかる。クルーピエの手によって、ルーレットが、回る。
テーブルに描かれた黒と赤の数字のマスに、豪奢な身なりの男女がチップを乗せ始める。
シュラも例外ではない。堆く重ねたチップを、これと思う番号のマスに積む。
「勝てるのか?」
シュラの耳元にカミュが囁く。するとシュラはニヤッと笑って、
「フッ、夜はこれから、お楽しみもこれからだ」