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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 前編

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6.『Il femande a boir』(彼は、何か飲み物が欲しいと言ってます)


夕方と夜の境目の時間。アテネ市内のいつもの飲み屋。
アフロディーテとサガがカウンター席を陣取ってカクテルを楽しんでいた。サガが珍しくアフロディーテを誘ってきたのである。
カクテル飲み放題を条件に同席したアフロディーテであるが、何故か彼は話の聞き役が多い。
面倒に巻き込まれたシュラが相談を持ち込むのは大抵アフロディーテであるし、デスマスクやミロもどういう訳か彼に話を聞いてもらうのを好む。
「……今日株のネット取り引きをやっていると、ミロが『カミュはどこだ』と…」
ため息と共に酒を煽るサガ。
偽教皇時代の所業を見ていればわかるが、普段はイイ子ぶっているものも実際はかなりの酒豪である。
「……おかげで今日は買いも売りも全くできなかった。気が散って失敗してしまうと困るからな」
あの天蠍宮の腕白小僧は、誰が相手でも同じ事をやっているようだ。
「それは御愁傷様でした」
苦笑いしつつ、カクテルグラスを傾けるアフロディーテ。グラスの中にはミモザが入っている。
シャンパンにオレンジジュースを入れた飲み易いカクテルであるが、シャンパンを使うためか値段が張るので、サガのような財布の重い人間と一緒に飲む時にしか注文しない。
「私は先日メルセデス株全部売りました。かなり危機的な財政状況にある上、欧州の自動車メーカーは日本メーカーの参入で非常に厳しい事になっています」
「今は自動車業界は冷え切っているからな。ITもそろそろ頭打ちか?」
会話の内容はそれなりに硬派なのにカウンター席で並んで酒を酌み交わしていると、ちょっと風変わりなカップルにしか見えないのが悲しいところである。
その後しばらく株関係の話をしていたサガであったが、昼間のミロの件が相当腹にすえかねているのか、アフロディーテにこう愚痴り出す。
「しかし、ミロめ。カミュがシュラと出かけた程度で大騒ぎしないでもらいたいものだ。カミュはミロの専有物ではないのだからな」
「ミロは専有物ではなく、たった一人の親友と思っているでしょうけどね。氷河の聖衣に血を与えたのもミロでしょう」
「その割には冥闘士と化したカミュに情け容赦なくスカーレットニードルを撃ち込んでいたが」
「あれは聖闘士として正しい姿でしょう」
「……カミュの意見を聞きたいものだな」
呆れたのか、ため息と共にサガはがっくりと肩を落とした。そして思い出したかのように急に、
「実際、カミュとシュラはどこに行ったのだろうな?」
「そうですね……」
しばし考えるアフロディーテ。シュラが行きそうな、かつカミュを連れていく必要がある場所。
彼自身も、過去にシュラと出かけた場所を全て思い起こしてみる。
閃いた!
「わかった。モナコです。シュラはフランス語があまり得意ではありませんからね。カミュを連れていったという事はフランス語圏の場所、しかも高いフランス語能力を必要とする場所という結果が出ます」
「その目的は?」
「先月一緒に飲んだ際『来月の給料が危ない』なんて話をしていましたからね。カジノで一儲けする気ではないでしょうか?」
アフロディーテの推理眼はかなり鋭い。愛読書がアガサ・クリスティというだけの事はある。
「泊まる場所も大方見当がつきますけどね。まぁ、カミュにとっても軽い息抜きになるのでしょうし、我々が口を挟む事ではないでしょう」
「そうだな」
遠い目をするサガ。偽教皇時代サガは、神経性胃潰瘍を患いそうだったカミュの姿を何度も見ている。
押しの強いミロに色々面倒事(主に報告書書き)を頼まれ、シベリアに帰れば二人の弟子を抱える男やもめ生活。
『男親!涙の育児日誌』を教皇への提出書類にする程の切羽詰った精神状態。
育児を忘れられるはずの聖域への出向期間中はカミュに会えてはしゃいでいるミロが常に引っ付いていたため、
安らげる暇など全くなかった。
当時何度心療内科を紹介しようと思ったことか!
平和になった今、普通の二十歳の青年らしくリゾート地で遊ぶというのも悪くはあるまい。
「サガも今度行ってみますか?私は何度か訪れていますが、とても楽しいところです。貴方なら気に入ると思いますよ」
「機会があったらな。どうせならフランスリーグの試合開催日に行きたいものだ」
楽しそうに旅行話をしているサガとアフロディーテ。
リラックスした雰囲気で酒を酌み交わす二人は、自分達の背後に迫りくる人影に全く気付かなかった。
「偽教皇時代はどこにも出かけられなかったからな。シオン教皇がいる今、色々世界中回ってみようか」
「そうですね…そのうち御一緒させて下さい」
「できればオレも一緒に!」
「……え?」
サガとアフロディーテは耳を疑った。知り合いの声を聞いたような声がするが、さて。
「サガ、オレも一緒にどこか連れてって下さいよー」
サガのジャケットの後身頃をつかむ、手。
背中に違和感を感じつつも、何故かサガは振り返る事ができなかった。
予想通りの光景を見るのがイヤ過ぎて。
しかしアフロディーテは好奇心が勝ってしまったためか、つい見てしまった。
Tシャツにジーンズというアテネ市内を闊歩している若者と差程変わらない服装のミロが、サガのジャケットをつかんでいる姿を。
「カミュに言っても、どこにも連れていってくれないんですよ。だからモナコいきましょう、モナコ!」
サガは無言でグラスを傾けているが、グラスをつかむ手に青筋が立っているのをアフロディーテは見逃さなかった。
このままじゃ黒サガになる!
「ミロ……」
アフロディーテはガシッとミロの手を取ると、サガのジャケットから外させた。そして咎めるように、
「取り敢えず聞きたいのだが、何故君がここにいる?」
「オレだって飲み屋にくらい行く。一応大人だからな」
「こんなところでモナコに連れていけと騒いでいる人間のどこが大人だ!」
サガはぐいっとグラスに残った酒をあおると、冷ややかな口調で告げた。
「何度も何度も人の邪魔をして、恥ずかしいと思わないのか?カミュがシュラと出かけたくなるのも、よくわかるというものだ」
ここまでビシッと言えると、さぞかし気持ちいいであろう。
流石サガだな…と、アフロディーテが感心している横で、ミロが泣きそうな顔でサガを睨んでいる。
「だって、カミュはオレの親友なんだ!寂しくなるのも仕方ないじゃないか!!」
「ならば、さっさとモナコに行ってみればいいだろう!ここから行けない距離ではないのだ!」
サガは相当イライラしている。いつもは冷静で穏やかな彼が、珍しく言葉を荒立たせている。
アフロディーテはそんなサガを制止するかのようにサガに右手を向けると、ミロに尋ねた。
「カミュの行き先は、ここで我々の話を立ち聞きしていれば済む事ではないか?場所がわかったのなら、さっさと旅支度をし、モナコでもモナカでもテレポートすればいい。なのに、何故我々にちょっかいを出す?」
ここで一区切りする。カクテルを一口飲んだ後、ややトーンを落とした声で、
「まさか、我々に引率してもらおう、旅費を出してもらおうなどと…甘い事を考えている訳ではないだろうね?」
アフロディーテの言葉を聞き、ミロの顔が林檎のように紅潮する。
深くため息をつくアフロディーテ。ここまで図星だと、かえって力が抜ける。