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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 前編

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5.『Je viens chez vous ce soir』(今夜お宅に伺います)


ミロがサガにお仕置きされている頃、シュラとカミュは今夜の宿に到着した。
着いた場所は何と、カジノ広場に程近いオテル・ド・パリ。
「本当にこんなところに泊まるのか?」
カミュがややクールさを失った様子で問う。
オテル・ド・パリといったら、モナコでも名の知れた超高級ホテル。アラン・デュカスのミシュラン三ツ星レストランも入った、最も有名なホテルの一つだ。
任務とはいえ、そんな所に泊まっていたのか!?
白い顔をやや紅潮させるカミュに、シュラは至極あっさりと、
「聖闘士がそんな目立つところに泊れるかよ。こっちだ」
と、建物の裏に回るようにてくてくと歩く。
正面入り口からちょうど正反対、オテル・ド・パリの通用口に程近い位置に、聖域の定宿はあった。
南欧プロバンス風の二階建ての白い建物で、パッと見は一般人の住居にしか見えない。
瀟洒な雰囲気の玄関に付けられたインターフォンを押し、来訪を知らせる。
「S'il vous plait」
この程度なら、シュラだって話せる。すぐにドアが開き…よく見知った人物が二人の前に現れる。
思わず目を見開くカミュ。まさかこんな所にいるとは思わなかった。
ドアから顔を出した相手は、二人を確認すると非常にイヤそうな表情で、
「……シュラ様と、カミュ様ですか……」
「そういうな、ミスティ。世話になるぞ」
と、シュラはズカズカと家の中に入る。ミスティは端正な容貌を曇らせると、
「私の家を勝手に宿にしないで頂きたい。教皇に言い付けますよ」
「シオン教皇は聖域の財布が痛まなければ何も言わんさ。それにお前にそんな度胸あるか?」
シュラは強気である。そしてその通りなのが、何とも悲しいところであった。ミスティは泣きそうな顔でぽつりと呟く。
「まったく、ミロ様といい、シュラ様といい……黄金聖闘士にはろくなのがいない……」
「何か言ったか?」
「いえ、別に。それよりもカミュ様がご一緒だなんて珍しいですね」
「通訳だよ。こいつのせいで俺の今月の生活費はパーなのでな」
シュラがモナコでどんな事をやっているのか知っているミスティは口がモゴモゴするのを感じたが、ノーコメントを貫いた。
カミュはどうやらミスティがモナコ在住とは知らなかったようだ。
「ミスティはフランス出身と聞いていたが?」
「出身はフランスのマルセイユです。修行地もコートダジュールになっていたでしょう?」
「カンヌやニース、もしくはマルセイユ在住かと思っていたのだが」
「師匠がモナコ国民だったもので、自然と私もモナコで暮らすようになったのですよ。ここは師匠の自宅で、後一つ……仕事用の部屋がサン・デヴォーテ手前にあります。ただ、私がモナコ在住である事が公になると色々と面倒が(この時ミスティは、1階のゲストルームに向かうシュラを思いきり睨み付けていた)あるので、聖域に提出している書類の住所は全てリヨンの親類の家にしています」
カミュは、ミスティの言う面倒の内容が痛い程よくわかった。ものすごくよくわかった。
もしモナコ在住がバレたなら、ミスティの家には観光目的の同僚や上司がひっきりなしに訪れ、ミスティはホテルマン技能を持つ聖闘士になってしまう事であろう。
モナコはホテルの宿泊料が高い。しかもカジノですってしまった場合、ホテル代がなくなってしまう。
しかし、知り合いの家に泊まるとなれば話は別だ。安心して遊べる。
「ミスティ、泊めてもらえるだけでありがたいからな。あまり気を使わなくてもいいぞ?」
気の毒に思ったカミュがそう声をかけると、ミスティは泣きそうな顔で、
「そう言って下さるのはカミュ様が初めてですよ。デスマスク様など……もう(文面にできないような凄まじい所業)で……」
「……そうか」
絶句するカミュ。
もしミロが一緒だった場合、ミロもデスマスクの事を笑えないようなデンジャラスな真似をするのではないだろうか?
あの男の事である。きっとモナコに入ったら子供のようにはしゃぎまくるに違いない。
……そんな風にミロの事を考えている自分に気がつき、カミュは苦笑した。
日頃ミロに手を焼いているためか、何かにつけてミロと一緒にいる自分をシミュレートしてしまうようだ。
と、先にゲストルームに入ったシュラが、フォーマルに着替えつつ大声でカミュに告げた。
「カミュ、食事を済ませたらカジノに行くぞ。グラン・カジノはドレスコードがあるからな。タキシードに着替えておけ!」
「了解した」
シュラが1階のゲストルームを使ってしまったので、カミュは2階のサブのゲストルームに案内された。
ベッドにクローゼット、サイドテーブルにテレビが一つ。
部屋に案内されたところで、カミュはとある疑問をミスティに投げかけてみた。
「シュラもお前を通訳にしてカジノに行けばよいものを。私を連れていく必要があったのか?」
するとミスティは苦笑しつつ、カミュの問いに答える。
「グラン・カジノは18歳未満は入場できないのですよ。ああ、あそこはパスポート必須ですので、お忘れなく」
そう、老けて見えるミスティだが、16歳なのである。一応未成年なのである。
『ダイダロスとオルフェ以外の白銀聖闘士は、カジノ入場禁止か。なんとも腑に落ちんな』
ため息をつき、世の中の不条理について考えるカミュ。
けれども考えても答えが出ないので、スーツケースから一張羅のタキシードを取り出し、カジノ行きの支度を始めた。