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龍の巫女 前篇

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人の気も知らずに・・・・・・あの朴念仁。



まだ夜は明けきらず、薄闇が室内を覆っている。
ミコトはいつも通りに目を開けると、瞬時に異変を悟った。勢いよく布団をはねのけ、体を起こす。自分の両手に視線を落とし、表情を固くした。

水神様の加護を、失った。

それが意味するのはーー巫女としての役目を降ろされるということ。
歴代の巫女達と同じように、自分も座を追われ、野に下るのだ。

何故、今になって・・・・・・!

奥歯を噛みしめる耳障りな音が薄闇に響く。
三百年以上も縛り付けておいて、今更役目を解くのか。他の者達は数年で家族の元に帰ることが出来たのに。ミコトは、自分の血縁が何処にいるのか、そもそも家が続いているのかすら知らない。
長きに渡って浮き世から隔離され、生きる術も教えられずに放り出されるなどごめんだ。

素早く起きあがると、乱暴に寝間着を脱ぎ捨てる。

私を侮るなよ、水神。



困惑する長老達を、ミコトは醒めた目で眺め回した。
誰も彼も、自分が巫女になった時には誕生すらしていない者ばかり。こんな若造どもに、自分の進退を言い渡されるなど。

「では、もう一度確認致しますが、水神様の加護を失ったというのは確かでしょうか?」

中でも年かさの者が口を開く。ミコトは頷くと、手をついて頭を下げる。

「そのことについて、お願いがあります。再度、私を巫女として選定していただきたい」
「なんと・・・・・・?」

ざわめきが場を支配する。全く前例のない申し出、普段なら一蹴されるであろう突飛な思いつきだが、それを言うなら一人の巫女がこれほど長きに渡って役目を務めること自体、前例がない。水神様の加護が厚い相手、無碍にしていいものかどうか。
場のざわめきが落ち着いた頃、再度年かさの長老が口を開いた。

「ミコト様・・・・・・それは、なんと言いますか・・・・・・全く例のないことでして」
「承知しております。本来なら、このような我が侭を申すことはあり得ないことだとも。ですが」

ミコトは顔を上げ、長老を見据える。

「私以上に、このお役目をこなせる者などいないと、自負しております。どうか、お聞き届けいただけませぬでしょうか」
「それは・・・・・・しかし・・・・・・」

真っ直ぐに見据えられ、長老は周囲に視線を向けるが、他の者達も困惑の視線を返すのみ。しばしの沈黙が流れ、意を決したように長老が口を開いた。

「分かりました。貴女様の熱意と、長きに渡っての献身を鑑みて、今回の申し出を受けましょう」
「・・・・・・! ありがとうございます」
「ご承知のように、巫女に選定される為には試練を受けていただかなければなりません。次の豊穣祭までに、とある島の御神体を持ち帰ること。これが成されれば、再度貴女様は龍の巫女となり、水神様のご加護を受けることとなりましょう。ですが、刻限を過ぎればお役目を解かれ、本殿を去らねばなりません。よろしいですね?」
「承知しております。お聞き届けいただき、ありがとうございます」
「それと・・・・・・今回はあくまで特例。それをお忘れなきよう」

念を押され、ミコトは了承の証に頷く。なんと言われようと、とにかく一歩は踏み出せたのだ。



ミコトが長老達の元を辞して部屋に戻ると、アマネが旅支度を調えていた。

「・・・・・・何をしている」
「旅支度をしております。こちらがミコト様の分。こちらが私の分」
「なっ、何で知って・・・・・・! いや、それより何故お前の分まであるのだ。これは私の試練、構わないでもらおう」
「何をおっしゃいます。龍の巫女のお世話をするのが、私の役目。貴女の行くところに、私もついて行きます。」
「わ、私はもう巫女ではない! ついてくるな!」
「そうですか。では時間もないことですし、早速出立致しましょう。地図は私が。島へ行くには舟が必要ですから、まずは港町を目指しましょう」
「話を聞け!!」


作品名:龍の巫女 前篇 作家名:シャオ