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愛シテル

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 まさかmouth to mouthでくるとは思わなかったけれど、でもリックは実兄のサクヤとはmouth to mouthだ。「家族なんだから」と事も無げなのは、彼にとっては普通のことなのかも知れないが、私を十分に動揺させる。
「家族って、思ってくれているのかい…?」
 同居を始めて二年。私にとってリックは特別な存在だったが、彼にとっての私はどうなのかわからなかった。私の想いを知った上での同居でも、マクレインの頃と二人の距離間はちっとも変わらない。「仕事のために住むところをシェアしている関係」と言う、周りからの見方と大差ないのではないかと思っていた。
 今のキスは、少なくとも私を家族と認めてくれたと言うことだろうか。
「俺はいつだって、そう思っているけど?」
 リックの口調はあたりまえのことだと言わんばかりだった。
 彼の思い出話の中に、ヴァイオリニストの兄以外の家族の話が出て来たことがない。家庭に恵まれていなかっただろうこと、そしてアンバランスな性格もそう言ったことが関係しているのだと、何となく理解していた。打ち解けているようで実はそうではなく、なかなか心の内を見せようとしないリックには、家族としての『あたりまえのこと』がどれほど特別なことか知っているつもりだ。 
 なのに私はその『特別』に付随したキスを、あくびの延長でうやむやにしてしまった。なんてことだ。
「じゃあ、もう一度。僕は『おやすみ』が言えなかった」
 なるべく自然に言ったつもりだけれど、リックは変に思わないだろうか。実際、キスをねだっているのだから、変には違いない。
 リックは苦笑しただけで、再度唇にキスをくれた。
「おやすみ、ジェフ」
 そう言って離れて行く唇を私は追って、
「おやすみ、リック」
同じようにキスを返す。よもや返しが来るとは予想しなかったのか、リックは少し意外そうな表情で、でも気にする風でもなく受けると、寝室へと向かった。
 私はそのまま、ソファに寝転がる。顔中の筋肉が緩んでいるのがわかった。
 とても幸せな気分だった。そして恋愛対象としてか、家族としてかはともかく、リックのことを愛しているのだと、今更ながらに確信したのである。
作品名:愛シテル 作家名:紙森けい