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コート・イン・ジ・アクト4 あした天気にしておくれ

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「みゃーもちゃーん」

おれを呼ぶらしい声がした。おれって『ミャーモ』とか『ミヤモッチャン』とか、そんなふうにしか呼ばれないよな。『ミヤモト』ってそんなに発音しづらいかな。

「なんですか」

「木村はどこにいんのー。お客さんだけど」

「班長なら今ちょっと――」

言いかけたところで、その『お客さん』というのが誰かに気づいた。

「ぎゃっ」

「なんだいなんだいなんだいなんだいその『ぎゃっ』ってのは。ご挨拶だねえ。お土産だよ。ちょいとみんなで食べておくんな」

「はあ、どうも」

風呂敷包みを受け取った。おれの一生にこれが最初で最後じゃねえかな、風呂敷なんかで物を受け取るの。

もちろん、あの川崎のおばちゃんだった。まさか、神奈川の真ん中のこの厚木まで押しかけてくるとは。

零子が言う。「この前はどうもありがとうございました。ええと、今日はどうしてこちらへ?」

「どうしたもこうしたもありゃしないわよ。一体何がどうなってんの、あの夫婦が釈放ってさあ。あたしはもうびっくりぎょうてん、何がなんだかわからなくって、いてもたってもいられなくって、もう取るものもとりあえず、ここへこうしてやって来たんじゃないかさあ」

「はあ。ええと、川崎からここまで?」

「そんなもん電車一本じゃないかい」

「まあそうですが」

直線でもここから30キロちょいだろう。あのゲンジョウは前田奈緒の感知範囲ギリギリくらいのところだった。

「っかし、凄いとこだねえ。ここはまるで、要塞だね。こんなところに入っていって中で迷子にならないかと思ったけど、お姉さんが『殺人課ならこちらですよ』って、丁寧に教えてくれてさ。助かったわよ」

オオヤ(所轄)のやつら、よくもまあ――てめえんとこに来る市民は何時間でも平気で待たせて半分くらい帰らせちまいやがるくせに。

――と、そこに、班長と佐久間さんがやって来た。いや、やって来たのだけれど、部屋の入口のとこで、『何かどこかで聞いたことのあるような声がするなあ』、という顔をしたかと思うと次の瞬間、おばちゃんに気づいてダッと逃げ出していった。あ、ずるい。それでも上司か。巡査部長か。正義の人がすることなのか。どうやらおれと零子のふたりでおばちゃんの相手をすることになりそうだった。

「えーと、その……やっと晴れて良かったですね」

「あたしは別に、天気の話をしに来たんじゃないんだよ。子供の話をしに来たんだよ。トモノリ君は一体これからどうなるんだい」

「『どうなるの』、と言われましても」

おれは言った。返事に困ったのにはふたつの理由があった。

ひとつはやっぱり、聞かれても、詳しいことまでよくは知らない。だがもうひとつはちょい複雑だ。あの少年が殺人予知者であることは、このおばちゃんに言うわけにいかない。

友希少年は基本的には、『大人になるまで離島で暮らすべき』という結論ならば既に出ている。〈離島〉と言ってももはや狂信アイランドと化してるような島もあるが、おれが言うのはもちろんそんなのじゃあなくて、子供の殺人予知者のための設備や環境がちゃんと整えられたところだ。

彼とは少なからず似た境遇の子供も多い。そこで友達もできるだろうし、テレビも見れれば魚釣りでも潮干狩りでもなんでもやって遊べるだろう。それと合わせて親と切り離してしまえば、とりあえずは解決なのだが、しかし今このおばちゃんに言えるか。

今のところ秘密で言えないというのもあるが、もしも話して『そんなのよりあたしが育てる』とかなんとか言い出したらどうしよう。

「えーと、その、わたしにはなんとも」

「頼りないねえ。あんた、正義の味方ってのは、ケンカが強いだけじゃダメだよ。トモノリ君はどうしているの。元気なのかい」

「ト、トモノリ君ですか。彼はええと、どうなのかな」

おれは言った。――と、そのとき、電話が鳴った。机の上の置き電話だ。ううむどうしよう、と思ったら、あっ、零子が凄い勢いで取りやがった。「ハイこちら殺人課です」なんて言いやんの。こんな相棒がいていいのか。

「トモノリ君は、川崎辺りの病院じゃなく、この近くまで連れてきたって話じゃなかったかな。確かそうだ。そうですよね?」

おれは言った。しばらくして、それに応える返事らしい声が遠くから聞こえてきた。「知らねえよ、誰に振ってんだ」

零子が受話器の口を手で押さえながら、「そうよ、あの狙撃のときの!」

「そうです。狙撃んときのです」

「なんだいソゲキントキノってなあ。見舞いに行っても会わせてくれないんだろうねえ」

「そうですねえ。やっぱ、無理なんじゃないですか。一般人が見舞いだなんて言ったって。普通の理由でそこにいるんじゃないんだから」

「そうだよねえ。あんたら警察が行ってもダメなの?」

「えっ、おれですか。どうだろな」

「ツカサ、ツカサ」

零子が言う。受話器を耳に当てたまんまだ。

「なんだよ」

「この電話、班長からなんだけどね」

「はん?」

ハンチョウってなんのハンチョウだ。班長つったら逃げてったあの班長しかいないじゃ――。

ないかと思ったところで、その話の続きが読めた。