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ヘルメットの中の目

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「ヘルメットが高く跳ね上がるのが見えた。トラックの荷台の高さがちょうど彼女の首の位置だったからね。」
先輩はいったい何の話をしているのだろう。
「ヘルメットは停止した俺のバイクの前に落ちて、乾いた音をたてながら俺の足元までころころと転がって来た。そして、ちょうど俺の目の前で、俺に正面を向けて静止した。」
センパイハイッタイナンノハナシヲシテイルノダロウ。
「そして、俺はヘルメットの中の彼女と目が合ったんだ。」
私はその先を聞きたくなかった。でも、耳を塞ぐことはできなかった。私の両手は、ヘルメットを抱え持っていたから。
「ヘルメットの中には、彼女の頭が入ったままだった。」
私は凍り付いたように、先輩の話を黙って聞き続けた。
「俺は彼女のそのヘルメットを、彼女の形見としてもらった。君が今持っているそのヘルメットさ。それ以来、そのヘルメットを被っていると、ヘルメットは俺に道案内をしてくれるんだ。」
腕に抱えたヘルメットが、いつの間にかずしりと重くなっていた。
このヘルメット、こんなに重かっただろうか。なぜこんなに重いのだろうか。
私はヘルメットを見つめた。俯いた私の目の前に、両腕に抱え込んだヘルメットのバイザーが見えている。そのバイザーの奥に、二つの目が悲し気に濡れて光っていた。
私は一瞬体が固まり、ヘルメットのバイザー越しにその目と見つめ合った。
そして我に返った瞬間、思わず両腕を跳ね上げてヘルメットを取り落とした。そのヘルメットを、先輩が空中ですくい取った。
「だめだよ、落としちゃ。」
先輩はそう言うと、自分が被っていたヘルメットを脱いでホルダーに固定し、私が被っていたヘルメットを被った。そして、じゃあと言い残してバイクで走り去って行った。
私は呆然と先輩のバイクを見送った。
もう、バイクに乗りたいという気持ちは、跡形もなく消え去っていた。


- 完 -
作品名:ヘルメットの中の目 作家名:sirius2014