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『掌に絆つないで』第一章

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Act.07 [幽助] 2019.5.2更新


「幽助~!久しぶりだなや!!」
「おーっ、陣!」
陣を筆頭に、懐かしい顔ぶれが六人揃って幽助のもとへやってきた。
受付開始から数時間。長蛇の列に苛立ちながら、ようやく選手登録を終え、ほっと一息ついた瞬間だった。
「今回こそは、幽助と当たりてェもんだぜえ」
酎が、相変わらず酒の臭いをプンプンさせながら言った。
「参加者が増え続けてるからな。なかなか当たらねえな」
「今日は蔵馬と一緒じゃないのか?」
当たり前のように鈴木が蔵馬の名を出す。
「ん? ああ…」
「まだ人間界にいるのか?」
「いや。来てるぜ、魔界に」
「ケンカでもしたのか?」
無意識に視線を泳がせていたらしい。凍矢が挟んだ言葉に図星をつかれたような気分にもなったが、別にケンカなどしてはいない。ただ少し、気に入らないことがあっただけ。
「蔵馬とケンカなんて……、しねえよ」
幽助は拗ねたようにつぶやいた。
もともとケンカの対象にもならない。蔵馬はいつも穏やかで、感情を剥き出しにするところをほとんど見たことがない。自分が何かに苛立っているときでも、蔵馬は幽助の癇に障るようなことは一切しなかった。これだけ長く一緒にいても、蔵馬に対して腹が立ったことなど幽助にはほんの数秒も思いつかない。
そんな相手とケンカ出来るはずねェじゃねーか、桑原じゃあるまいし。
……出来るはずが、ない?
「……あれ…?」
「ん? どうしたべ、幽助」
無意識に声を出していた。陣がその様子に気づくが、幽助は何も応えられなかった。
滅多に使わない彼の頭の中で、グルグルと何かが渦巻き始める。その直後、異質な機械音が頭上にこだました。
『ピンポン。浦飯幽助さん、大会本部まで来てください』
簡易なドーム内にいた彼らの耳に、大会本部からの呼び出しが鮮明に聞こえた。
「……オレ?」
大会の運営はもう第一回大会主催者の幽助には関係なく、運営委員会がすべて仕切っていた。なぜ呼び出されるのか検討もつかないが、苗字付きの名前など聞き間違えるわけもない。
「呼び出しなんて珍しいな~。蔵馬が幽助を探してるんじゃないの?」
「あのな、鈴駒。オレと蔵馬も別行動することはあんだよ」
「なんだよ、幽助。ムキになって」
「なってねえよ」
なってなくはない。幽助が感情を押し殺さないまま鈴駒を睨むと、鈴駒は酎の後ろに隠れて「あいつ、機嫌悪いぞ」とつぶやいた。
我ながら大人気ないと自分自身、思う。それでも幽助の中の暗雲は、簡単に晴れそうもなかった。