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街コンの夜①

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街コン

地域振興を目的とした大規模な合コンイベント。2000年代初頭に開催された地域イベントを発端とし、多種多様な形で全国の都市部に拡がりを見せている。
全国各地で開催される街コンをまとめたポータルサイトもあり、趣味を共通としたものや、参加者の年齢や職業を制限するものなど、理想の出会いを求める人達にとって非常に有益なものとなっている。
近年は会場として飲食店の1店舗を貸切りとし、リーズナブルな料金でアルコール類やソフトドリンク、軽食が付いてくるのが一般的なスタイルとなっている。
Wikipediaより。


全国的にもメジャーな存在となった街コンは、ここH市でも数年前から盛り上がりを見せ、連日の様に出会いを求める男女によるパーティーが市内のあちこちで開催されていた。
H市は古くから物作りが盛んな工業の街だが、駅前の繁華街には大手百貨店が出店する駅ビルが建ち並び、地方都市としては規模も大きく人口も100万人を超える。
しかしながら近年は少子化による若年層の人口減少が問題となっており、未婚率解消の為、婚活イベントに街を挙げて力を入れていた。

夏の暑さもひと段落した9月の終わり頃、大手の街コンポータルサイトに一つの広告が掲載された。

「ドラマティックな出会いを求める方必見!ちょっぴり大人の同世代コン♡」
2人の距離を縮める素敵な演出を多数ご用意!

主催:街コンdeエモーション

謳い文句として、いささか窺わしさを感じさせるこのイベントは、予想に反して男女共に応募率も高く、数日後に開催が決定の通知が応募者に配信された。

それから数週間後。
徐々に夜の闇があたりを包み始めた、H市中心街の駅前大通り。
週末の土曜日という事もあり、路上を行き交う人込みは早くも賑わいを見せていた。

ここの一画に店を出す、こぢんまりとしてカジュアルなダイニングバー。ラフなファッションの男女達が次々に店内へと吸い込まれていく。
はたからも、今晩この場所で何かしらの催しが行われる事は明らかであった。

客達は若者特有のキャッキャッとした雰囲気は薄く、皆どこか落ち着きを感じさせる。
ダウンライトに照らされた会場は、既に受付を済ませパーティーの始まりを待つ者達の無意味な会話でつつまれていた。

初対面とは思えない程、既にかなり話が弾んでいる男女や、緊張感をほぐす様に連れとの会話に熱中する者、黙って場の空気に耐えようとしている者など、スタートのアナウンスを待つ多くの人達が早くもにぎわいを見せている。

やがて、店内で一際雰囲気の際立った細身のスーツ姿の男がマイクを手に取った。

「えー、お集まり頂きありがとうございます。今夜の街コンを主催致します、街コンdeエモーションの吉田と申します」

程よく通る声で、会場内の客達に呼びかける。
撫で付けた髪に整えた口髭が、薄暗い照明と落ち着いたインテリアの店内に溶け込むように、良く似合っている。
騒ついていた会場が静まり、皆が男の声に耳を傾けた。

「本日は時間制の立食スタイルとなっております。まずはお手元の自己紹介カードを記入して頂き、会場内の席を自由に移動してフリートークをお楽しみください」

コミュニティ力が物を言う、玄人向けのパーティーを予感させる。

男は白い歯を薄く覗かせ、矢継ぎ早に話を続けた。

「お食事はビュッフェ形式です。あちらのテーブルからご自由にお取り下さい。フリードリンクはカウンターでご注文をお願いします」

吉田の指示に沿って、一同が視線を動かす。

色鮮やかなサラダ、ソーセージやフライドポテト、枝豆など数種類の軽食が壁際のテーブルに大皿で盛られている。
特段贅沢とは言えないが、この手のパーティーにしては種類が豊富だ。

まずは、この料理類をテーブルに運んでくる手際の良さに第一印象を印象付けようとする者達にとっては、重要な情報となる。

「では、短い時間となりますが今宵皆様に良い出会いがあります様に。これより開始と致しまぁす!」

一同が男の妙なテンションに失笑し、どこか和やかなムードで街コンは始まった。

ドリンクを求める者達や、我先にと食べ物を取りに急ぐ者達が狭い会場内に入り乱れ、
とたんに騒がしさが増す。
あちこちで乾杯の音頭と共に、グラスを合わせる乾いた音が響くと、お互いの自己紹介を始める声が不協和音の様に重なり合い、パーティーのカジュアルさと形式ばった挨拶が混ざった異様な雰囲気につつまれた。
場を盛り上げようと異様に声を張り上げて笑う者、熱心に相手の自己紹介カードを読む者、所在なく会場をうろつく者、 それぞれの思惑を感じさせる多様な男女が行き交い、店内はむせ返る様だった。

初めの内は緊張感が見え隠れしていた客達も、時間と共にアルコールが進むにつれてお互いの距離感を近づけていく。
さっそく連絡先を交換しようと、スマートフォンを覗き合う男女もちらほらと見受けられ始めていた。

そんな中、ひと際にぎやかな男女と、それに巻き込まれる様な形で場に参加している男女で一卓を囲む4人組が、会場内で一つのコミュニティを形成しつつあった。

ホールの一番奥に据えられた小振りな丸テーブルを囲みながら、立ち話をする4人。

女の1人はすでにかなりお酒が進んでいる様子で、隣に立つ堂々とした巨躯の男を時折こづきながらジョッキに注がれたビールをグイグイと飲みほしていく。そんな様子を横目に、もう1組の男女がお互いのプライベートについて他愛もない会話を交わしていた。

「ちょっとあんた、誰がウーロン茶頼んでいいって言ったの!?まだ全然飲んで無いじゃん!」

「す、すいません、明日は仕事で早いんです…勘弁して下さいよ…」

「こっちだって仕事だっつの!気合いが足りないんだよ、最近の若い子は!」

勢い任せに絡む気の強そうな女と、まるで上司に叱られる部下の様に頭を下げる体格の良い若者の男に体育会系の構図を感じさせる。そんな様子に苦笑を浮かべつつ、4人の中では少しだけ年長者と思しき青年が、全く雰囲気の異なる小柄な女性に話しかける。

「はは、リカコさんはお酒強いんだねー、アヤちゃんはお酒飲める方?」

「い、いえ、私はあまり…カクテル1杯で十分です…」

「そうなんだ。休日は何してんの?趣味は音楽鑑賞って書いてあるけど。」

「わ、私はもっぱらインドア派なんですが…意外って言われるんですけど、和製のメタル
とかハードロックが好きなんです。タケルさんは何聴かれます…?」

「俺は、まあ…何でも。最近の曲はあまり詳しくはないけどね」

「そうなんですね」

年上らしく会話をリードしようとするが、思わぬ展開に一瞬戸惑いを見せる。
途切れた会話を紛らわす様に、グラスに口をつけビールを少しだけ口に含んだ。

一方、明るく染めたロングヘアーを綺麗にカールさせた女は、相変わらずビール片手に年下の大男に悪態をたれつつも、内心この男を気に入った様子だ。

会場の片隅では、吉田と名乗った男がしきりに辺りを見渡しながら、スマートフォンでどこかに電話を掛けている。
作品名:街コンの夜① 作家名:ねぼすけ