小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

⑤冷酷な夕焼けに溶かされて

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

切ない真実


「芬允(ふぃん)。」

リク様が諫めるように、鋭く名を呼んだ。

けれど、フィンは怯むことなく言葉を続ける。

「僕は、母が犯されてできた子なんです。」

その瞬間、ボグッという鈍い音と共に、フィンが殴り飛ばされた。

「フィン!」

数メートル先に転がるフィンに私が駆け寄るよりも早く、リク様がその胸ぐらを掴み上げる。

「母を侮辱するな。」

そう言うリク様からは激しい殺気が放たれ、低く艶やかな声は底冷えのする鋭さだった。

あまりの恐ろしさに私の足は竦んだけれど、フィンは全く怯む様子がない。

「ははっ!」

嘲るように笑い、リク様をななめに見つめ返した。

「侮辱なんかしてません。『真実』を申しただけですよ。」

嘲笑を浮かべたその表情は、いつもの様子とは全く違う。

(一見、リク様を嘲っているように見えるけれど、本当は自分自身を嘲笑っているようだわ。)

「慣例では、花の都もおとぎの国も、星一族の血を引いている王族の子どもは、忍か王子か、将来を選択できるじゃないですか。
けれど、僕には選択の機会が与えられず、最初から忍として育てられた。
しかも、次期頭領の修行と称して5歳からルーチェへ行かされて…。
他の忍達は、おとぎの国か花の都かで修行するのに!」

フィンがリク様を睨みながら言うと、リク様からじょじょに殺気が薄れていった。

「…あなたの子どもが僕だけだから、仕方なく次期頭領と定められたけど、本当はその血も実力もない。
だから箔をつけるために、敢えて危険なルーチェへ出されたということくらい…気付いてますよ、『父上』。」

「…。」

悲しさが溢れるフィンとは対照的に、殺気の消えたリク様の表情は無機質だ。

フィンはそんなリク様から目を逸らすと、自分の黒髪をぎゅっと握りしめる。

そして、リク様の手をふりはらい、サッと距離をとった。

「この黒髪…。花の都の王族は銀髪なのに、麻流様が隔世遺伝で黒髪だから僕もそうだと騙されてきた。けど…ほんとは、違う。」

「…。」

「雪の国の民族は、黒髪黒瞳。
…だからこれが、母上を犯した雪の国の残党の血をひいてるって証拠だろ!?」

苦しげに奥歯を噛みしめるフィンを、リク様は険しい目付きで見つめる。

「それに僕には色術が遺伝してないし、身体能力もさほど高くない!
これほどあからさまなのに、次期頭領に据えられて…どれだけ苦しかったか…。」

ひどく傷ついた表情で、フィンはまくしたてた。

「…。」

(こんなフィン、見たことがない…。)

動揺する私たちの前で、リク様は眉間に皺を寄せると、ななめにフィンを見据える。

「おまえ…ルーチェに帰って、何があった?」

先ほどまでの鋭さと違い、探るようにフィンをじっと見つめるリク様。

「…。」

とたんに黙り込むフィンに、リク様は一歩近づく。

「ミシェルか?」

「っ!…ちが…う」

「では、誰?」

「…。」

フィンは何かにとらわれたように、強ばった表情でリク様をじっと見つめたまま微動だにしない。

リク様はそのままフィンに近づき、鼻と鼻がつきそうな至近距離でその黒瞳を覗き込んだ。

「とりあえず、眠りな。」

銀のマスクを僅かにずらしてリク様が耳元で囁くと、フィンは糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。

けれど、地面に倒れ込む前に、リク様がその体を抱き止めた。

「すみません。先に城へ戻ります。」

言いながらフィンを軽々と肩に担ぎ上げ、そのまま姿を消す。

「…今のは…催眠?」

ルイーズを見上げると、ミルクチョコレートの瞳が細められた。

「たぶん、色術だろう。…色術も、催眠の一種だそうだから。」

ようやく人間らしさを感じたリク様を、再び得体の知れない存在に感じてしまう。

思わず身震いする私の肩を、ルイーズが優しく抱いた。

けれど一気に膨らんだ不安は、満ち潮のように心の中に広がる。

「ミシェル様のそばにいるはずのフィンがおとぎの国にいるなんて…何かあったのかしら…。」

城でリク様にごまかされたことを思い出し、一気にふくらんだ不安が、口をついて出た。

すると突然、ルイーズに手首をぐいっと掴まれる。

「ルイーズ?」

戸惑う私の手を、ルイーズは強引に繋ぐ。

「行こう。」

包み込む大きなあたたかい手は力強く、私の胸が小さく高鳴った。

「どこへ?」

「行けばわかる。…きっと気に入るはずだ。」

精悍な頬をやわらかく崩して甘く微笑まれたら、心にチョコレートを流し込まれたようにその甘さにうっとりとしてしまう。

思考を奪われた私は、その後は羞恥でルイーズの顔を見ることができなくなり、うつむいたまま黙って歩いた。