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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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機械仕掛けの神01


 満天に輝く星々の下で、星よりも強い輝きを放つ巨大都市エデン。
 魔導と科学の融合により生まれた魔導炉により、膨大なエネルギーが二十四時間、止まることなく都市にエネルギーが供給される。――この都市は決して眠らない。
 小規模なビルが立ち並ぶビル街。ビルの屋上から下を眺めると、深夜だというのに車の往来が多い。
 月が見守るビルの屋上にいる、闇に溶ける黒衣を身に纏った長身の男性。彼は美しく長く伸びた黒髪を風に靡かせながら、ビルからビルへと飛び移り、執拗なまでに追いかけて来る敵の追撃から逃げていた。
 黒衣の男の後ろを追って来るモノは人ではなかった。――キメラ生物だ。
 キメラ生物とは、異なった遺伝子型が身体の各部で混在する生物のことで、ここ数十年の間に研究が急速に進み、生物兵器として世界規模で爆発的に創られた。しかし、キメラ生物の危険性や倫理の問題で、国際条約によってキメラ生物を創ることを禁止され、この国もその条約に加盟しているのだが、この国の裏社会は世界トップのキメラ生物の研究と生産を誇っていた。
 キメラ生物に追われている男の名は鴉。しかし、それ本当の名ではない。なぜ彼が鴉と呼ばれるようになったかには多くの説がある。常に黒衣で身を包み、その黒衣を着て彼が戦う姿が黒く巨大な魔鳥のように見えたからなどとも言われるが、彼が鴉と呼ばれた真実の理由を知る者は極僅かだった。
 鴉の足が広いビルの屋上で止まった。彼はただ逃げていたわけではなかった。敵と十二分に戦える広い場所を探していたのだ。
 鴉を追って来たキメラの姿は人間のような形をしているが、衣服を全く着ていないその身体は緑色をしており、毛の一本も生えていなかった。
 キメラの数は全部で三匹だ。腕をだらりと地面に垂らし、皆、ギロリとした光る双眸で鴉を睨みつけていた。
 月光を浴びた鴉の横顔は美しかった。長く伸びた鼻梁も、血のように赤い唇も、そして、蒼白く透き通るような肌も、人間のものとは思えないほどに美しい。しかし、表情に乏しく無表情だった。
 夜風が屋上に吹き込み、鴉の纏う黒衣が大きく揺れ動く。
 三匹のキメラが鴉の周りを取り囲んだ。だが、鴉は全く動かずに静かに目を瞑った。
 人間では決して出すことのできないスピードで二匹目のキメラが鴉の横から襲い掛かり、残りの一匹は蛙のように飛び上がり鴉の頭上を狙った。
 鴉が目を開けたと同時に黒衣が激しく広がり、うねるようにして?黒衣?が三匹のキメラを次々と叩き飛ばした。それはまるで黒衣が?生きている?ような光景だった。
 地面に叩きつけられたキメラが立ち上がる前に鴉は飛翔し、その途中で鴉は自らの腕と手を硬質化して、ダイヤモンドよりも硬い鋭い爪へと変えた。
 天から舞い降りた鴉は餌を狙う魔鳥の如くキメラの顔面を鷲づかみにした。だが、獲物を掴んだ魔鳥は再び天に昇ることなく、そのままキメラの頭を固いコンクリートの地面に激しく叩きつけて潰した。
 地面にしゃがみ込む体勢になっている鴉の背後から、二匹のキメラが襲い掛かって来たが、鴉が円舞を踊るように立ち上がると同時に、黒衣が大鎌の役目を果たした。
 二匹のキメラの頭は呻き声をあげることもできぬまま宙を舞い、地面に鈍い音を立てながら落ちた。
 薔薇の蕾のような鴉の唇から言葉が発せられた。
「刺客か……!?」
 ビルを飛び交う人影を鴉は見た。鴉の瞳は夜でも昼間のように遠くまで見通すことができる。
 ビルと飛び交う人影は、黒を基調とした生地に白いレースをあしらったゴシック調のドレスを着ている。そして、手には月の光を反射する巨大な鎌を構えている。
 鴉のいるビルの屋上にやって来たドレス姿の人物。歳の頃は、十七、八ほどで、小柄な身体に腰の辺りまで伸びた美しい黒髪が風に靡いている。そして、顔はとても可愛らしい中に妖艶とした雰囲気を持っていた。
「早く逃げた方がいいと思うよぉ」
 可愛らしく空気のように澄んだ声であったが、鴉はその裏にある性格の悪さを瞬時に感じ取っていた。
 何から逃げた方がよいのか? 鴉はそれを問うまでもなかった。
 ドレス姿の人物の後ろからヒトのような生物が追って来た。その生物に目を血走っており、とても正気とは思えない形相をしている。
 鴉が呟く。
「躱せ」
「わおっ!?」
 ドレス姿の人物は声を荒げながら、後ろからの攻撃を避けた。そして、すぐに持っていた大鎌を勢いよく後ろに振る。
 ビュンという音とともにドレス姿の人物を追って来たモノの首が宙を舞う。だが、これでは死なない。それは、このドレス姿の人物も、――そして、鴉も知っている。
 斬られたはずの首の付け根から新たな首が生える。もちろん、斬り飛ばされた首は地面に転がったままだ。
 強靭な再生力を持つ怪物を前にドレス姿の人物が声を荒げる。
「もぉ、さっきから斬っても斬ってもキリがないよぉ!」
 ドレス姿の人物の横を黒い風が擦り抜ける。それは鴉だった。
 鴉は硬質化させている手を怪物の胸に突き刺して何かを握りつぶした。手が引き抜かれ、激しく血が吹き出ると同時に怪物は地面に倒れた。
「灰は灰に、塵は塵に、永遠など無いのだ」
 鴉がそう呟くと同時、地面に倒れている怪物は灰と化してしまった。
 自分がいくら斬っても倒せなかった相手を意図も簡単に倒されて、ドレス姿の人物は驚愕した。
「あなたはいったい!?」
「鴉とヒトからは呼ばれている」
 ドレス姿の人物も鴉のことは知っていた。裏社会では有名人物の名だった。
「あなたが鴉なの? やっぱり噂ど〜りのチョー美形のお兄様。アタシの名前は夏凛、ヨロシクね」
 自己紹介をして黒い手袋した手を差し出した夏凛であったが、鴉の手は出されることはなく、彼は夏凛を無視するように歩き出した。
「アタシを無視する気!? これでもチョー一流の美人トラブルシューターなんだけどぉ」
 トラブルシューターとは簡単に言うと?何でも屋?のことで、迷子の仔猫探しから怪物退治までありとあらゆる仕事をこなす職業のことである。そのトラブルシューターの中でも夏凛の実力はこの街で五本の指に入るほどであり、その容姿はこの街で三本の指に入るほどの美しさを持ち合わせていた。だが、鴉にとっては関心のないこと。
 隣のビルに飛び移ろうとする鴉の前に夏凛が立ち塞がる。
「待ってたら、さっきはありがとぉ。で、今度お礼の意味も込めて一緒に食事に行かない?」
 夏凛は自分よりも美しい存在に目がなく、鴉の姿を一目見た瞬間に恋に落ちてしまった。
 鴉は隣のビルに飛び移るのを止めただが、その瞳は天を向いている。
 夏凛も?それ?を見た。長い光の尾を引く彗星。彗星が飛来して来るなどというニュースはなかったはずだ。つまり、この彗星は観測所に見つからずに突如、宇宙から降って来たことになる。
 堕ちて来た彗星の大きさはそれほど大きくはないが、その光は?それ?自体が輝きを放っているように眩しい。もしかしたら、彗星ではなく兵器という可能性もある。だが、鴉は?それ?が何であるか知っていた。
「……新たなラエルだな」
 鴉の立つビルの屋上からよく見える輝き。宇宙から堕ちて来たモノの光がよく見えたのは、その大きさからではなく、近くにあったからだった。