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勇気の夢

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「え? ユキ、どうしたの? その格好」
「どうしたの?って何よ、ずいぶん失礼じゃない? あたしも女の子だってこと忘れてない?」

 ユキは漢字で『勇気』と書く、もちろん今時生まれる前に性別なんてわかってたはずだから、女の子だってわかっていてつけられた名前、もっとも、男の子でも『勇気』でそのままユウキと読ませるつもりだったらしいけど……ちなみにお兄さんは『元気』。
 ユキのお父さんが言うには『人間、悔いなく生きて行くために大切なのは勇気と元気だ』ということだけど……まあ、ユキに『勇気』という字はぴったりだからお父さんの望みどおりに育ったんだろうと思う、ううん、望み以上だったかも……。

 ユキはプロのサッカー選手。
 わたしも相当なお転婆だったから小学校の頃は地元のJリーグのU-12チームに入ってた、ユキはその時のチームメート、もっとも、家が近所だし小学校も一緒だったからクラブに入るずっと前から幼馴染だったけど。
 クラブでもユキは目立ってた、男の子たち、それもサッカー大好きで選抜試験にも合格するような男子に混じってもエース・ストライカーだったの。
 わたしはといえば、ベンチにもろくに入れない有様で、小学校卒業と同時に辞めちゃったけど、ユキはそのままU-15、18とクラブの女子チームでサッカーを続けて、年代別の日本代表チームにもいつも呼ばれてて、高校卒業と同時にプロになったんだ。

 ユキのプレースタイルは、俊足を飛ばして縦パス一本でディフェンスを振り切る、とか、二人がかりでマークされながらダイビングヘッドに行く、とか、良い意味で泥臭い、ファイトを思いっきり前面に押し出したもの。
 もちろん、俊足だけじゃなくて、敏捷性とか体幹の強さとかも抜きん出てるんだけどね。
 ま、その反面、ドリブルとかフェイントとか細かいテクニックはイマイチ、ユキに言わせれば『発展途上』だけどね。

「だって、ユキの振袖姿なんて初めて見るもん」
「そうでしょうねぇ、だって初めて着たんだから」
 ユキは一点の曇りもない笑顔を見せる。
 それもそのはず、ユキにとって念願だったことがつい一昨日、元旦に実現したんだから。
 サッカー皇后杯、男子の天皇杯と対をなす女子サッカーの大きなタイトルのひとつ、って言うか、なでしこリーグ優勝と並ぶ二大タイトルよね。
 今年リーグ優勝をさらわれたチーム相手の決勝戦、終了間際にユキの決勝ゴールで鮮やかに勝ったんだ。
 わたしもスタジアムに出かけて観戦してたんだけど、ユキがディフェンダーに腕をつかまれながらもスライディングしながらシュートを決めた瞬間、スタジアムが爆発するんじゃないかってくらいボルテージが上がったなぁ、わたしも隣で観戦してただけで見ず知らずだった人と思いっきり抱き合って飛び跳ねちゃった。

「そうか、念願が叶ったから自分にご褒美ってわけ?」
「もちろんその意味もあるけどさ、去年もこの神社で願掛けして叶ったでしょ? だからお礼の正装、それにさ、あたしももう21だよ、ちょっとは女の子らしい格好して写真の一枚も撮っておかなきゃって思って」
「そうかぁ、スマホで良ければ撮ってあげるよ」
「うん、お願い、おすましするから美人に撮ってね」
 で、その時撮ったのがこの一枚ってわけ、いい線行ってるでしょ? 腕前も被写体も。
 ユキってさ、小さい頃から男の子顔負けに活発な子だったけど、結構顔も可愛いんだよね、本人はサッカーのことしか考えてなかったから気づいてなかったかもしれないけど、ユキのこと好きだった男子、わたしいっぱい知ってる。
 でもね、晴れ着を着ておすまししたユキは可愛いって言うより綺麗だった。
 プレーもちょっと前まではスピード、ファイト一辺倒だったけど、今年あたりからはポジショニングとか相手の裏を取る動きとか上手くなって来てるしね……。

 で、わたしはスマホを構えて……あることに気づいたの。
「あれ? あはは」
「なぁに? 急に笑い出したりして」
「ユキの後ろの絵馬」
「絵馬がどうしたの? あ」
「『猪突猛進』って書いてある、ユキにぴったりだね」
「あ~、せっかくおすまししてるのにそれ言う?……ふふ、でもその通りかもね」
「ユキ、お礼参りってだけじゃないでしょ、今年も大切な願掛けがあるんだよね」
「わかる?」
「そりゃ今年は女子ワールドカップだもん」
「そうなんだ、代表に呼ばれて出られると良いなって思って」
「ユキらしくないなぁ」
「え? そう? どうして?」
「出るだけで満足するわけないじゃん、スタメンに入って、点もたくさんとって、世界一になるってところまで言わなきゃ」
「ふふふ、確かに……実はそう思ってるの、だから思いっきり日本女性の正装で願掛けに来たんだ」
「うん、わたしも応援してる」
「ありがとう、心強いよ」

 そんな会話をしていたからか、ユキが皇后杯で決勝点を入れたサッカー選手だって気づいた人たちがユキを取り囲み始めた。
 ユキもにこやかに応対してる……。
 その姿、ワールドカップ後のテレビでもう一度見れたらいいな、世界一になったなでしこジャパンがそろって晴れ着でTV出演とかしたら格好良いよね。
 でも、それって『夢』じゃなくて『目標』なんだよね、ユキ。
 あなたには夢を現実に引き寄せる力があるんだもん。
 日本中が応援してるからね。


            (終)
作品名:勇気の夢 作家名:ST