Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第庫話「吊られし者」THE HANGED MAN
﨔木夜慧「『人狼』は必ず、この中に居ます。俺は、それが誰かも知ってます。でも、その理由は言えません。言えば、『本人』は偽装しようとしますから」
生田兵庫「馬鹿馬鹿しい! そんな話、付いて行けないよ! 僕は本門寺に向かうから…あれ? 扉が開かない…え、どうなってるの?」
﨔木夜慧「逃げられないよ! 俺が、鍵を閉めたからなっ!」
斎宮星見「おいおい、勘弁してくれよ…そういう勝手な真似をするんだったら、俺達にも考えがある! そのガラス、防弾じゃないよな? んじゃ、無敎の銃で一撃だ…あれ、ない!」
﨔木夜慧「武器は、皆さんが起きる前に、回収させて貰(もら)いました。そして、今は…俺の手にあります」
美保関天満「夜慧、レールガンを下ろしなさい! 如何なる情況でも、味方に銃口を向けるのは、認められないわ!」
﨔木夜慧「味方? 本当にそうなの? 今にも俺達を喰い殺そうと思ってる敵が、この中に居るんだよ!」
斎宮星見「﨔木、お前…ふざけるのもいい加減にしろ!」
十三宮顕「星見、早まるな! 今、レールガンは﨔木さんの手にある…ここで戦っても、勝てない」
斎宮星見「ちっ…面倒だな」
﨔木夜慧「アラームが鳴ったら、執行します。例え、もう『人間をやめた』存在であっても、良心が残っているなら、今のうちに自供してくれませんか、人狼さん?」
生田兵庫「…あぁもうっ! 全く、どうすれば良いんだよ?」
塔樹無敎「簡単な話だ。私達全員がアリバイを示して、ヒトである事を証明すれば良い」
斎宮星見「どうやって? 昔はともかく、今の俺達は『アプリコーゼンの村人』であって、それ以上でも以下でもないだろ?」
十三宮顕「その通り、皆『村人』なんだよ。﨔木さん…お手前は、この中に犯人が居ると主張しているが、その前提が誤っている。例えば、もし僕が化物だとしたら、昨夜に﨔木さんと会っているわけだから、そこでお手前は喰い殺されていたはず。でも現実には昨晩、何ら事件は起きなかった。事件が起きなかった以上、当然ながら、犯人も存在しない」
美保関天満「まあ、普通はそう考えますよね…」
十三宮顕「恐らく﨔木さんは、ヨーロッパの『魔女狩りゲーム』に着想を受けて、そういう事を言っているんだろうけど、あれは本来、『一夜ごとに村人が一人死ぬ』というルールに基づいている。誰も死んでいない以上、ここには魔女も、狼人間も居ないと考えるべきだ」
塔樹無敎「同感」
﨔木夜慧「惨劇が起きてからでは、遅いんです! 例え昨夜が無事でも、今宵が安全である保証なんて、どこにもないじゃないですか!…時間切れです、処刑します」
生田兵庫「だから、誰を? もしかして、先生?」
﨔木夜慧「いいえ。人狼は、お前だよ…アララギ!」
塔樹無敎「ほう…この私を化物認定とは、興味深いじゃないか。何故そう言い切れる?」
﨔木夜慧「お前は俺達の中で、最も理知的に行動して来た。生田と星見ちゃんを、この密室の『村』に導き、俺達と寝食を共にするよう仕向けた…それは、俺達を襲う意志があったからだろう!」
塔樹無敎「売れない三流作家並みの迷推理、いや妄想とは恐れ入った。策士を以て人狼など、片腹痛い。もしヒトが哺乳綱(こう)食肉目(ネコもく)イヌ科の獣類(friends)に『退化』すれば、脳容積も縮小し、その言動に大幅な変化が見られると思うが?」
﨔木夜慧「遺言を受け付けました。では、ゲームオーバーです」
﨔木夜慧は、トリガーを引いた。
美保関天満「夜慧! やめなさいっ!」
﨔木夜慧「死ねえェーッ!!」
斎宮星見「やめろ! よせっ!」
間に合わなかった…。
生田兵庫「あ…塔樹君!」
作品名:Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変― 作家名:スライダーの会