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輪の中心でぴょんぴょん跳ねる(リードオフ・ガール 番外編)

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1-2とリードされて迎えた最終7回裏、ノーアウト・ランナー一塁。

 この回、監督が好投の雅美に代えてバッターボックスに送ったのはしぶといバッティングが身上のベテラン、相手もクローザーを投入し、球威で押して来たが、散々粘った末にフォアボールを選んで出塁、同点のランナーが出てベンチは沸き立った。
 次のバッターはトップバッターの由紀、打席に向かおうとすると、三塁コーチャーズボックスから出て来た淑子に呼び止められた。

 女子野球ワールドカップ決勝、相手はアメリカ代表チーム。
 学童チーム・サンダース時代からの盟友、由紀、雅美、淑子の三人は揃って日本代表チームに選ばれていた。
 もちろん淑子はサードコーチャーとしてだが。

 小学校時代に学童野球で活躍する女の子は少なくない、しかし女子野球部のある中学、高校は非常に稀で、素質があり意欲もある選手でも野球を続けて行くための受け皿がほとんどなく、高校野球に至ってはグラウンドに出ることさえ許されないのが実情だ。
 
『受け皿がないなら作れば良い』
 そう考えたのはサンダースの監督・小川光弘の父、光男だ。
 自らも社会人野球で活躍した光男は、当時K奈川県野球連盟の役員だった。
 由紀と淑子が小学校を卒業するに当たって、その行く末を案じた彼は女子クラブチーム大会の開催に尽力し、息子の光弘もサンダースの指導を続けながら、新たに中学生以上の女子を対象にしたサンダー・ガールズを結成して大会に備えた。
 K奈川県は高校野球の強豪が揃い、プロ野球チームもフランチャイズを置く野球の盛んな土地柄、そして全国大会でも活躍した由紀と雅美は学童チームで活躍する女の子たちの憧れ。
 サンダー・ガールズには入団希望者が殺到し、他の地区で結成された女子チームにも沢山の女子選手が参加した。 
 その結果、第一回・K奈川県女子クラブチーム選手権大会は大成功を収め、以後年々参加チームも増えて隆盛を見せ、その成果は日本各地に飛び火して女子クラブチームは増え続けている。
 そして高校卒業と同時にサンダー・ガールズを卒業した由紀と淑子が、そして翌年には雅美も女子プロ野球チームに入団し、活躍しているのだ。

「バットをいつもより短く持ってみない?」
「これよりも?」
 20歳になった今でも由紀は小柄な部類、プロの選手の中ではひときわ小柄だし、筋力アップには努めているものの非力であることは否めない、それを抜群のスピードで補うのが由紀の選手としての特徴だ、それゆえ普段からバットはひと握り半も余して握っている。
 だが、これより短くと言うことになると……。
「外角に届かなくなっちゃうけど……飛びつくのね?」
「そう、あなたがバットを極端に短く握ったら相手は決して内角には投げてこないわ、飛びつくようにバットを出してファーストの頭の上を越せばしめたものよ」
「わかった、やってみる」
 アメリカのクローザーが投げるボールは速い上に力もある、非力な由紀が内角球を引っ張ってもヒットになる確率は低い、まともに立ち向かって打てない相手ならば頭を使うしかない。

「ストラ~イク!」
 一球目、由紀は外角高めの速球に対してフルスイングで空振りした、だがこれは意図的なものだ。
 外角にはバットが届かないと見せかけ、次も外角球を投げさせるために撒いた餌。
 キャッチャーからの返球を受けたピッチャーはあっさりと頷いてセットポジションに入った。
(次も外角のストレート)
 由紀はそう確信してバットを構えた。
(来た!)
 次の投球も想像通りの外角へのストレート、しかも高めのボール気味だった一球目よりもボール二つほど低く、打ち頃の高さだ。

 ガツン!

 ジャストミートとまでは行かなかったが、由紀のバットはボールを捉え、打球はゆるいライナーとなってファーストがジャンプして差し出したミットの上を越えた。
 当たりは良くないものの長打コース、一塁ランナーは一目散に二塁ベースを駆け抜ける。
 そして打球の勢いがないのが却って幸いした。
 フェアグラウンドぎりぎりにポトリと落ちたボールにはスピンがかかっていて、ファールグラウンドにコロコロと転がってフェンスの手前でぴたりと止まった。
 アメリカのライトは大柄な中心打者、強肩なのでそのまま守備についていたが、動きはやや鈍く足も速くない、非力な由紀がバッターと言うことで浅めの守備位置を取ってはいたが、このスタジアムはファールグラウンドがかなり広い。
 懸命にボールを拾いに行くライトの姿を見て、三塁コーチャーズボックスの淑子は大きく腕を回し、一塁ランナーは三塁ベースを回る、同点は確実だ。
 しかし、淑子はそのまま腕を回し続けた、飛びぬけて俊足の由紀は既に三塁ベースの手前まで来ていたのだ。
 定石を言うならば由紀を三塁に留めるのが上策、まだノーアウトで打順は二番、三番、四番と続く、ヒットでなくとも、由紀の足ならば外野フライや高いバウンドの内野ゴロでホームを狙える、由紀がホームを踏めばサヨナラ勝ちなのだ。
 しかし淑子には確信があった、ライトの強肩は知っているが右投げのライトがボールを拾って送球するには体を時計回りに180度ひねらなければならない、そのタイムラグと一旦逆方向に体をひねることで送球の勢いが削がれるであろうことを考慮すれば由紀は充分にホームベースを陥れられる、と。
 加えてアメリカ代表チームのクローザーは並外れた球速の持ち主であり、高めの速球は伸びがあって打席に立てば見た目以上に速く感じるはず、日本代表の上位打線といえども捉えることはなかなか難しい……もし由紀がホームでタッチアウトになれば責められる事を覚悟の上で勝負をかけたのだ。

 由紀は淑子が腕を回し続けるのを見て迷わず三塁ベースを蹴った。
 小学校時代から一緒で今でも同じチームに所属する親友であり、野球と言うゲームへの理解度は底知れない淑子だ、その判断が間違っていたことなどない、もしアウトになればそれは自分の力不足だと。
 
 しかし、淑子の判断には誤算があった。
 ボールを素手で拾ったライトは体を時計回りににひねらず、一旦ホームに背を向ける形で反時計回りに回転し、その回転力も利用して矢のような送球を送って来た。
 一旦目を切ればコントロールが定まらないのが常、淑子はそう判断したのだが、アメリカのライトは一か八かの勝負に出たのだ、そしてボールは一直線にキャッチャーめがけて飛ぶ。

(しまった!)
 淑子は祈るような気持ちでホームに向かう由紀の背中を見守った。
 タイミングはアウトだ、もう由紀に任せる外はない。