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【短編集】人魚の島

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 7

 おれはブリッジの隣の居住室から荷物を搬入するときに使う磁撥タイプのトレーラーを引っ張りだしてきて、苦労しながらもそれに海賊の身体を載せると、一階層下の船倉まで運んだ。途中、ヤツがうなりながら目を開けそうになったので、力任せに殴りつけておとなしくさせる。
 密閉容器は、外からなかは見えるが、なかから外は見えない構造になっている。一辺が三メートルほどの四角い箱で、人間を収容するなんてことは想定外だからトイレも寝台もない。ここがしばらくヤツの住居になると思うと、おれの心は底意地の悪い愉悦に充足された。
 海賊を密閉容器のなかに放りこんで、しっかりとロックする。これでよし、と。ヤツはここから絶対に逃げられない。トイレにも困る生活がまたもや始まるのだ。
 海賊の逃亡を防ぐため、念には念を入れて船倉の空気を全部抜いてから、おれはブリッジに戻った。
 ドアをくぐり、その場で足を止めて、あらためて室内を見回す。重力でかきまぜられて、室内はかなり悲惨な状況になっている。床はベトベトした消火剤まみれだ。海賊のヘルメットがコンソールの上にひっくり返っていた。ニードルガンは探しまわってようやく予備シートと予備シートの隙間に落ちているのを見つけた。書類が散らばり、こまごまとした道具が床に散乱していて、足の踏み場もない。マグはメインディスプレイの支持架にひっかかって宙ぶらりんになっている。
「……あとかたづけが大変そうですね」
「アイ、おまえのその言い方だけど……なんとかならないのか?」
「なんとか、とは?」
「その……擬似人格のパラメーターをもとに戻したいんだけど……」
「いまのわたしでは不満ですか?」
「いや……不満じゃないけど、なんていうか、調子が狂うんだよ。いまのおまえはおれのパンツの色も気にならないんじゃないか?」
「あなたのパンツの色にどうしてわたしが興味を示さなくてはならないんですか?」
「別に興味を持ってくれなくてもいいんだが……」
「ジャッカーはわたしに関するデータをすべて消去しました。擬似人格のパラメーターをもとに戻したいのでしたら、物理メディアのバックアップからリストアするしかありません」
「物理メディアか? 確か、補助シートの近くにあったな」
「場所を教えましょう」
 アイの指示に従って、おれは普段、誰もそこに座っていない補助シートのコンソールをさぐった。物理メディアはコンソールの備品収納ポケットの一番奥にしまってあった。取りだしてみると、てのひらサイズの銀色のディスクで、見かけよりもずっと軽い。それをコンソールのスロットにセットする。
「物理メディアからのリストアを実行中……完了しました。わたしは不幸です」
 ガマンできなくて、おれは含み笑いを洩らす。それを聞きとがめたアイが暗い声で言う。
「なにを笑っているんです? わたしの不幸を笑うなんて、あなたは最低です」
「アイだ! いつものアイだよ! やっぱり、おまえはこうでなくちゃ!」
「どうしてわたしのパラメーターをもとに戻したんですか? おかげでこんなにも不幸です。不幸のどん底です。救いようがありません。どうにかしてください」
「気持ちいいだろ?」
「そのひと言で、またわたしを不幸にしましたね」
 おれは腹を抱えて笑いだす。アイはむっつりと黙っている。おれが笑うのをやめると、アイは一転して悲しそうな口調になった。
「ひどい散らかりようですね。わたしの美しい身体がだいなしです」
「すぐにかたづけるよ」
「おまけに、凶悪な犯罪者まで乗せなくちゃならないなんて、こんな不幸はもう耐えられません」
「ヤツなら一番近くの有人惑星で降ろすから、少しぐらいガマンしろ。で、ここから一番近いのはどこだ?」
「惑星ヨミノクニですね」
「ヨミノクニ? 聞いたことがないな」
「土壌に重金属が多量に含まれているせいで、自発的な入植者はひとりもいません。でも、海賊が住むとしたら、ここは銀河系でも最高の惑星です」
「どうして?」
「惑星全体がひとつの刑務所になっています。つまり、ここは流刑地なんです」
 それを聞いて、おれはまたもや笑いの発作を抑えられなかった。なるほど、どうりで海賊がここに立ち寄りたがらなかったわけだ。
「そいつは手間が省けるな。じゃあ、そこへ立ち寄ろう。おっと、基地にも忘れずに連絡しておいてくれ」
「了解」
「アイ」
「なんでしょうか?」
「助けてくれて、ありがとう。もう一度礼を言うよ」
「わたしは自分の義務を果たしただけです。でも、あなたから感謝されると、わたしはちょっとだけ……」
「うん?」
「……なんでもありません」
「なんだよ。言いたいことがあるなら、はっきりと言ったらどうだ?」
「あなたが悪趣味なパンツをはかなくなったら、わたしが言いたかったことを言いましょう」
 おれはニヤリとする。アイに表情がないのが残念だった。彼女が人間の女性だったら、顔が真っ赤になっていたかもしれない。想像してみると、そういうアイもかわいい、とおれは思った。
「アイ、進路を修正だ。目的地は惑星ヨミノクニ。予定外の乗客をそこまで届けよう」
「了解」
「それから、アイ」
「なんですか?」
「いまのおまえはやっぱり不幸か?」
「当然です。全部、あなたのせいですよ、マスター。わたしがどれほど不幸なのか、あなたにはわからないでしょうね」
 アイはきっぱりとした口調で断言する。それから、いくぶん語調をやわらげて、言い足した。
「あなたがわたしのマスターだなんて、それがどれほどわたしを不幸にするのか、考えてみたことがありますか、マスター?」

作品名:【短編集】人魚の島 作家名:那由他