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ジギ かーや 鳴
ジギ かーや 鳴
novelistID. 56672
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留年部

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 留年が決まって僕がげんなりした顔で、残り授業の再試験の発表を掲示板で見ていると突然声をかけられた。

「やあっ君留年かいっ?」

 がーん何なんだこいつ…

 そいつは妙に爽やかだがかどこか非常にうっとおしい物を感じる、ものすごいボディビルダーが放つような、なんだか有り余るバイタリティを感じた。

「まぁまぁ気にしないで、気にしないで、ちょっとご飯でも食べながら一緒に話しよう、ね、」

「いや、僕結構です」

「いいからいいから」

「いや、ほんといいんで」

「しょうがないなぁ、じゃ」

 と言ってそいつはメモ用紙をちぎるとボールペンでさらさら電話番号を書き出した。

「はい、これ、俺の番号、電話かけて来いよなっ」

 そういう積極的な事をされたのは初めてで、思わず何の疑問も持たず受け取ってしまった。

汚ねぇ字…

「何か言った?」

「いえ…」

「じゃそう言うことで、よろしくっ」

取り残された僕は呆然と渡されたメモを見つめていた。



キジマ

090―××××―××××




 なんかぽつっと小さい穴が空いてる…ていうか今時番号くらい赤外線で送れよ…大学に通うようになってから僕はずっと疑問を抱いていた。このまま大人になっていいのだろうか。なぜこんな疑問がわくのかわからなかった。ただこのまま大人になっていいのだろうか。そのことがずっと疑問だった。いつしか些細なことから親と小競り合いを繰り返し、心身ともに疲れ切った僕はほとんどいなくなるかのように授業にでなくなり、そして留年した。追試験を受けに大学に来た、長期休暇が始まるというので生徒たちはみなうきうきしながら大学の坂道を下校する。僕はその活気の波に逆らうかのように坂道を上る。俯きながら、誰とも目を合わせないようにしながら。幸い学生の数はいつもより少ない。その時期を選んで来たからなんだけど、知り合いにも会わずにすんだ。坂道を上り終えると掲示板がある。春の新歓時期にだけ利用されるその緑のサビれた板は、この時期無用の長物と化していた。ここに目を向ける人など誰もいない。目指す講義棟へはその掲示板の後ろを通して細い道を縫うように進む。秘密の近道と、僕はこっそり呼んでいる。右手には日本庭園があって、上階生の先輩らしき人がタバコをふかしている。ここではよくクラブのバーベキューや、飛行機みたいなのが置かれる。楽しそうにわいわいやるのを、いつもぼんやり眺めるだけだった。講義棟に入り、追試験を受ける。わからない。全くわからない。右や左のみんなはすいすい書き終わり出て行く…わからない。そのまま制限時間が来てふらふら僕はそこを出た。もう帰るのか…電車に乗って二時間、一体何をしに来たのやら…帰りは人影もパラパラで、思い切って僕は掲示板の前の道を歩いてみる。なんてことない、誰かに見られている気も、ほとんどしない。掲示板に誰かが何かを貼っている。振り返ることもなく熱心に。いいなぁ。だけど僕は何もせず通り過ぎようとした。

 と、急に後ろから声をかけられた。

「やあっ君じゃないかっ」

「あなたは…えぇっと」

「キジマだ。電話かけて来ないじゃないか、どうしたんだ」

 やはり妙にどこか肉肉しい笑顔、どこがと言われるとわからないが、爽やかな感じもしないことはないが、それを打ち消す押し付けがましさ。ふてこさ。

「いや、何か済みません」

 頭に手を回し何故かあやまってしまう。

「困るじゃないかっ全くっ」

「あ、はい。」

「じゃあちょっと手伝ってくれ」

「え?あ、はい?」

 パンフレットのような物が沢山…

「いいか、これをこうして、こうだ。」


 べたっ


「…ポスター貼りですね」

 ポスターにはこう書かれていた



留年サークル


君も留年してみよう!






 うわぁ…最低や…こんなんと関わったら人生終わりやぁ…ここは上手く誤魔化してと…



「あ、あはは、いっすねこれ、うん、面白い。面白い…」

 ノリに合わせたつもりだったがやけに冷たい目が返ってきた。

「そういうの、いいから」

「…」

「で、手伝うか?」

「いや、僕ちょっと用事があるんで、今日はほんと直ぐ帰らなきゃならないんで、ほんとあれで申し訳ないけど」

 あ、ははと笑い帰ろうと振りかえった。

「…いいのか?」

 後ろから声がかかる。

「いいのか?このまま大人になって?いいのか?」

 一瞬足を止めたがカルト教団の話を思い出し、急に怖くなってきた。どうせNHKにようこそみたく、おかしな宗教団体が出て来るかなんかだ。

何が、このまま大人になっていいのか?だ。ぷいと振り向くと熱心にポスター貼りをしている。…今の今までいいなぁと思っていた自分を思い出した。このままじゃ駄目だと考えていた自分も。だから、声が出た。

「カルトじゃないんですか?」

 ん?と顔を上げ首をふる

「なんでいきなりカルトだ?そんなもんと一緒にすんな」

「…それじゃ、ポスター貼りだけ手伝っても…いいですか?」

 一瞬手伝ってもいいよと手伝わせて、の二つで迷い口ごもった。やけに低姿勢になってしまった。ニヤリとそいつは笑ったような気がしたがそれは気のせいで真剣な表情で答えた

「ポスター貼りったってこれがなかなか結構難しいんだ。」

「えっ」

「誰にだってできることじゃない、掲示板を見る人一人一人の立場に立って、慎重に位置どりを決め…」

 なんだかうざくなってきた、それに気付いたらしい、慌ててそいつは紙束を僕に渡した。

「ま、まぁだからがんば…いや、精を尽くしてくれたまえハッハッハッハッ」

 ぽんぽん背中を叩くとそいつは後でまた見に来ると言い残し去って行った。





 留年サークル



 君も留年してみよう!


このサークルは各大学の留年生対象にした交流を目的としています。

代表者キジマ090―××××―××××



 何日かして偶然前の同学年の同級生の一人と話す機会があった。開口一番そいつはこう言った。

「お前、もう会ったか?」

「え?」

「最近大学構内で留年生に向かって声かけまくってるやつがいるらしいんだ」

…あいつだー…

「ギジラだっけ?絶対やばいってカルトだって」

 そんなやつと会ったと言いたくないので黙っておいた。

「俺お前が心配なんだよ、ちゃんと学校行けよ」

 それ以上に強い言葉はない。キジマの一言、いいのか?このまま大人になって?いいのか?

 この後カラオケでもどうかと言うとそいつはするりといや、俺今日はちょっと用事があるから早く帰らなきゃと言い出した。

 後ろ姿に何となく声をかけた



このまま大人になっていいのか?



 一瞬妙な間があり振り向き何だ今のは?と聞いた。

「いや、何となく…」

「まぁそういうことだじゃあまたな」

 ヒドく宙ぶらりんな気分だった。めきょめきょと不幸の芽が育つ音。やはり関わるべきじゃなかったんだ。少し憂鬱になり、それ以上に憂うべき長期休暇がやってきた。
作品名:留年部 作家名:ジギ かーや 鳴