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タイトル未定

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 昨年と一昨年の2年間は週に2度、朝の6時に起きて6時半からのラジオ体操当番のために地域の会館へ行き、そのあとの7時半から夕方の5時までは部活で汗を流していた。けれど、今年は違う。もう部活がないのだから、週に2度だけラジオ体操当番に出向きさえすればあとは好きに時間を使える。なんと素晴らしいことか。
 と、自由な夏休みライフに心を弾ませていたのだが、思いの外、自由な時間が多いというのはつまらないものだった。
 部活を引退し、本当の夏休みが始まって五日目、俺は既にやることがなくなってしまっていた。
 夏休み用に渡された問題集は夏休み前から手をつけていて、もう既に終わらせてしまっている。自由研究は毎日聞いているラジオ英会話の書き写しだから日々にできることは限られている。受験勉強をすれば良いのかもしれないが、志望校は俺の学力よりもはるかに程度が低く、そもそも勉強の必要がない。
 じゃあゲームをやればいいと思うかもしれないが、ゲームはむしろやりすぎて飽きが回ってきたところだった。この時期、テレビはろくな番組がやっていないし、本などは読む気にすらなれない。
 望んでいたはずの暇な夏休みは苦痛を詰め込まれただけの面白みのない時間だった。いつも遊んでいる人間は同じ部活動の人間ばかりで、あいつらは今日も元気に飽きることなく炎天下で走り回っている。
「はぁ…。暇だな」
 そう呟くと、自分がつまらない状況にいることがよりいっそう身にしみた。そして、俺がこぼした独り言を耳ざとく拾った母が、
「暇ならさ、この封筒を爺ちゃんのとこの向かいにあるポストに入れてきてよ」
 そんなおつかいを言い渡してきた。
 仕方なしに封筒を受け取り、俺は祖父が経営する床屋の向かい側にある郵便局へと向かった。
 家の勝手口を出るとすぐの位置に細い道路があり、その道路は突き当たりで垂直の角度で別の細い道路と交わっている。その交わっている道路を真っ直ぐ北に3分ほど歩くと、勝手口の目の前にある細い道路と平行の位置に国道があり、その国道沿いの、家から見れば国道の向こう側に祖父の経営する床屋と祖母の経営する美容室が並ぶように建っている。
 俺はいつも通りに突っ掛けを履いて勝手口から道路に出た。
 時刻はもう昼を回っていて、太陽は空のほぼ真南の位置で忌々しいことに熱と紫外線をばら撒いている。暑いし眩しいしで鬱陶しいのだが、そんな太陽がなければ俺たちの暮らすこの世界は成り立たない。
 今日はいつも通りに暑い日で、ニュース番組のお天気コーナが言うには最高で37度になるそうだ。その数値を聞くと体感温度が実際よりも高く感じられた。けれど、風が吹いているだけ幾分か過ごし易い。

 ほんの少しの道のりを鼻歌まじりに歩くと、近所の家々の田んぼや畑に人気がないことに気がついた。昼時だからおかしな話ではない。きっと皆、家の中で扇風機の風でも浴びながら、あくびが出るようなテレビ番組を横目に冷やし茶漬けでも食べているのだろう。
 周りに誰もいないのをいいことに、近所の家の敷地から道路に飛び出してしまっているキンカンの木に近づいてその実を幾つか拝借した。
 そうやって寄り道をしながらも、俺は郵便局とは名ばかりのボロくさいくすんだ白色の建物にたどり着き、締め切られた扉の脇に設置された錆の目立つポストに封筒を落とし込んだ。
 底に着いた封筒がカツンと音を立てた。この音は俺の暮らすこの村まがいの街がまだ生きている証拠だ。ポストに封筒を入れてカツンと音がするうちは、まだ郵便などの機能が生きている。外界からは切り離されていない。けれど、この音がしなくなるのも時間の問題だろう。
 目的を果たした俺は、再び訪れた暇な時間をどうにか潰そうと郵便局の裏手の道を進んだところにある神社に向かった。暇つぶし何て言えば聞こえは悪いだろうが、実際の理由はもっと聞こえが悪い。
 ただの下心のために俺は神社へと向かった。
 この時、俺には既に好きな人がいた。名前は白藤《しらふじ》雪乃《ゆきの》といい、小学生の時に彼女のことが好きなのではないかと気づき始めてもうかれこれ五年ほど経つ。俺は彼女のことを苗字と名前をくっつけて「しらの」と呼んでいた。そうやって呼ぶ理由は特になかったけど、他のやつとは違う呼び方をして、俺のことを彼女に焼き付けたかった。まぁ、いってしまえばただ陳腐な差別化を図りたかっただけだ。
 なぜ今から神社へと向かうこととしらのが関係するのかというと、毎年この時期になると神社では小さな夏祭りがあり、その際に巫女装束に身を包んだ少女が五人で巫女舞《みこまい》と呼ばれるものを踊って神様に奉納するからであり、その一員に、しらのが居るからだ。
 つまり、俺は巫女舞の練習に来ているしらのに会うために神社へと向かうのだ。
 
 木々の合間に大きめの石で縁取りをして砂利で舗装してあるだけの道を進むと、ふと開けた空間が現れ、そこに目的としていた神社は現れた。森の中に建てられているせいか、神社の舗装が間に合っておらず、かなりボロボロだ。神社を覆い囲む木々には蝉が無数にしがみついていて、その鳴き声を耳が異常なほどに拾って頭が痛くなる。
 いつもなら正午からの三時間ほど、彼女は巫女装束を身に纏って神社の前の参道の脇みたいな場所でよく分からない舞のようなものを踊っている。だからてっきり、今日もいつもと同じように練習をしているのだろうと思っていた。
 でも、今日はその場所にしらのはいなかった。しらのはおろか、他の巫女舞のメンバーもいない。どうやら今日は巫女舞の練習自体が休みであるようだった。
 仕方なしに参道脇の水汲み場で水を飲もうとそちらへ歩み寄ると、参拝をしていたと思われる人たちがこちらに歩いてくるのが見えた。
 普段、この神社は神主さんが一人とその家族が二人いるだけで、巫女舞の練習がない限りは他の人間などほとんど立ち入らない。このあたりの住人はみんな年末年始に参拝するだけでその他のタイミングで参拝することなどない。そして、この神社は何かしらの効能を持っているわけでもないため、そもそも参拝する人間が珍しかった。
 だから俺はその参拝客たちを食い入るように眺めた。
 参拝していたのは六人。おばあちゃんが一人と見た限り小学生の男の子が二人、俺とそんなに歳が変わらないように見える女の子が一人、それと、子供達の両親と思われる男女。
 六人は俺が水を飲もうと近づいた水汲み場の方に砂利道に沿って歩いてきて、その中のおばあちゃんが俺に声をかけてきた。
「あんれぇ。りょうちゃんやないけ」
 そのおばあちゃんに俺は見覚えがあった。
「こんにちは」
 そうやって俺が頭を下げた相手は家のお向かいさんだった。自宅でキノコを栽培して販売しているこのおばあちゃんの事を街の皆は総じて「しいたけ婆ちゃん」と呼ぶ。現に、彼女の作ったキノコは美味しいし、中でもしいたけは驚くほど絶品だ。
「今日は参拝なんかしてどうしたんですか?」
 俺が気になっていたことを聞くと、しいたけ婆ちゃんは嬉しそうに笑いながら、「孫がしばらくこっちで暮らすから神様に見守ってくださいってお願いしに来たんや」と言った。
作品名:タイトル未定 作家名:リクライ