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もうひとつの『お葬式』

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「あら……私どうしちゃったのかしら、やだ、これってお葬式? あの遺影は確かに私よね……どうなってるの?…………そうか、思い出したわ、夜中に急に胸が苦しくなって気を失っちゃったんだったわ……って言うか、気を失ったどころじゃなくて死んじゃったのね……でもなんだか実感沸かないな~……なんて本人は暢気に言ってるけど、あなた、ごめんなさいね、ずいぶんと忙しそう、子供達も……生きてたら孫のお守り位してあげるんだけど……って、死ななかったらこんなに忙しい思いさせなくても良かったのよね……ごめんね~。
 うふふ、和尚さんの頭凄く光ってる、木魚どころか鐘みたい……あら、私ったら不謹慎ねぇ、昔からこんなことばっかり考えて……あ、キョウコちゃん来てくれてるんだ、クミコちゃんとケイコちゃんも……思い出すなぁ、高校時代、ホント、箸が転んでも可笑しい年頃ってあるのよね、あの頃から私はこんなだから、ずいぶんと笑ってくれたっけ……楽しかったなぁ、あの頃……キョウコちゃんたちの顔見たら思い出しちゃった…………私、本当に死んじゃったのね、もうキョウコちゃんたちとも会えないのかぁ、そう思うと泣けてきちゃう……ダメダメ、ワタシ、いつだって友達を笑わせるのが私の役目だったし、楽しみでもあったんじゃない、私がメソメソしてどうするの? 
 友達ばかりじゃないわ、あなた、ごめんなさいね、私がいなくなったらパンツをしまってある場所もわからないんじゃないかしら……お料理だってしたことないわよね、外食ばかりになっちゃうのかな、今でもメタボ気味なのに大丈夫かしら……。
 子供達は二人とも結婚してるから心配ないけど、孫たちとはもっと遊んであげたかったなぁ……おばあちゃんのこと、ちょっとでも覚えててくれるかしら……。
 
 お経が始まったわね……そう言えばキョウコちゃんたちとなんか約束したことがあったっけ、思い出せないなぁ、歳は取りたくないものね、あ、もうこれ以上は取らないのか……
え~と、なんだっけ……。
 うふふ、お坊さんの頭、ライトが当ったら凄く光って……あ、思い出した! お坊さんの頭を木魚みたいに叩いてみせるから泣かないでねって言ったんだったわ!
 キョウコちゃんたちのお焼香の番ね、いやだ、みんな、そんな悲しそうな顔しないでよ、私がそういうの苦手だって知ってるじゃない……もう……私まで悲しくなっちゃう……お葬式の本人なんだけどさ……。
 これはもうやるっきゃないわね、お坊さんには申し訳ないけど、たまにはいいんじゃない? お葬式で笑いを取ったことなんてないでしょ?

 チャンス! 惜しい! 失敗だわ……お坊さん、ごめんなさい、今度はこっちに……」

 ゴ~~ン~~

「やった! 大成功! お坊さん、何が起こったのかわからないでキョトキョトしてる、うふふ、みんな笑いを堪えてるし、私のお葬式はこうでなくっちゃね………………あ、キョウコちゃんたち、こっち見てる……覚えててくれたのね、お坊さんの頭木魚みたいに叩くって、あの冗談を……嬉しいわ、気持ち良くあの世へ行けそうよ……ありがとう……。
 あなた、子供たち、孫たち……それとお友達……一足先に行ってるわね、急いで来なくていいからね……その代わり……その代わり……私の写真を見たら思い出してね、最後までお茶目なことばっかり考えてた私の事を……きっとよ……約束だからね……………………」
作品名:もうひとつの『お葬式』 作家名:ST