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永遠の保障

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 と話す女の子に、他の女の子は、
「分かってなんかいないわよ。もし分かっていれば、友達付き合いなんかできるはずないもの」
 と言った。
 しかし、それは彼女たちの間だけの限られた発想でしかなかった。彩香の発想は彼女たちの限られた発想を飛び越えていたのだ。途中から自分の置かれている立場に気付き始めた彩香だったが、そんなことを相手に悟らせることがないほど、彩香は天然な性格だったのだ。
 彩香の天然なところは、まわりに対してだけだった。
 彩香は実際には現実的な性格で、天然に見えるのは、彼女の考え方が一周回って元の場所に戻ってくることでまわりに見えない部分があることで、ちょっとした矛盾が生まれても、それを天然だとして片づけられてしまうように見せているからだった。
 見せていると言っても、彩香が意識していることではない。彩香の、
――持って生まれた性格の一つ――
 なのだろう。
 彩香が現実的な性格だと自分で意識するようになったのは、気が付けばいつも何かを考えているということに気付いてからだった。
 考えている時間は、その時々でさまざまだった。十五分くらいのこともあれば、一時間以上物思いにふけっていることがある。ただ、実際に考えていた時間を感じている自分には、そのすべてがあっという間だったという感覚しかなかった。
 まるで夢のような時間が通り過ぎていた。何を考えていたのか覚えている時の方が稀であり、そのほとんどは、我に返った瞬間に忘れてしまっている。
――それこそ夢と同じではないか――
 と感じていた。
 眠っている時に見る夢を覚えていることはほとんどない。覚えている夢があるとすれば、それは怖い夢を見た時だけだった。夢というのは、元来目が覚めるにしたがって忘れていくものだと思っているが、怖い夢に限っては、印象が深すぎて、そのまま覚えていることが多い。
――見ていたい夢は、ちょうどいいところで目が覚めてしまうのに――
 という思いを抱いていた。
 考えてみれば、これもおかしな話である。目が覚めるにしたがって夢を忘れてしまうにも関わらず、ちょうどいいところで目が覚めたという意識を持っているということは、夢がどこで切れたのかということを理解していることになる。
――本当に覚えていないのかしら?
 と感じるのも無理もないことで、夢に対しての考え方を改めなければならないのではないかと思ったりもしていた。
 それを矛盾と考えるのは飛躍しすぎなのかも知れないが、その頃から考え方の矛盾というものを意識し始めたのも事実だったように感じた。
 彩香はその頃から、確率という考え方に造詣を深めていることに気が付いた。
 いつも何かを考えていることで、忘れてしまっていることが多いのだが、そんな中でも覚えているのは、
――何か確率について考えていたんじゃないかしら?
 という感覚があったことだった。
 確率というと、数字で割り切ることのできるものだと思うが、発想の中の確率というのはそこまで具体的なものではない。何か比較対象があって、その比較において、どちらが可能性が高いかという発想から始まり、その可能性がそのまま確率に結びついていることに気が付いた。
 ここまではすぐに感じたことのように書いたが、実際にはそうでもなかった。比較対象の可能性をそのまま確率いう発想に結びつけるのは、かなりの無理があったに違いないと思っている。
――そういえば、数学の授業で確率の勉強があった――
 と、考え事をしている時に感じたような気がした。
 数学の授業で習う確率は、実際には好きではなかった。難しい公式に当て嵌めてみたり、決まった法則の中で解き明かすという数学本来の考え方に、うんざりしたものもあったからだ。
 彩香は数学は嫌いだった。
 小学生の頃の算数は好きだったのに、中学に入って数学になると、急に嫌いになった。その理由は自分で分かっているつもりだ。
――算数は、答えを導くのに、そのプロセスにおいて、どんな解き方であっても、そこに矛盾や間違いがなければ正解なのだ。でも、数学になると、決まった公式があって、暗記した公式に当て嵌めることで解かなければ正解にはならない――
 それが数学を嫌いになった理由だった。
 要するに、
――算数には自由な発想が許されるが、数学には自由な発想が許されない――
 ということだったのだ。
 ただ、今から思えば、同じ数学でも好きなものもあった。それが因数分解だったり、三角関数だった。
「どうして好きなの?」
 と聞かれると返答に困るが、まさに感性だった。
 それが、彩香が天然だと言われるゆえんの一つだったのかも知れない。
 学問としてではなく、確率を考えるような機会は、日常生活の中にも結構あった。いつも何かを考えている時の中でも、確率について考えていることが多かったのは間違いないだろう。
 しかし、具体的には覚えていないのが悲しいことであり、逆にどうして覚えていないのかということが漠然とであるが分かるようになってきたのも皮肉なことだった。
――覚えていないのは、単純に忘れてしまいたいと思っているからなんじゃないのだろうか?
 実に単純な考えである。
 だが、単純な発想ほど意外と思いつかないものである。人間には思い込みがあり、思い込みというのは時と場合によってはなければいけないものでもある。
「思い込みが激しいと、ロクなことがないわよ」
 と友達に言われたことがあったが、
「思い込みだって、時として必要なんじゃないかって思うのよ。思い込みがなくなると、自分に対しての自信がなくなってしまうような気がするからなんだけどね」
 というと、
「思い込みがなくなったくらいで自分に自信がなくなってしまうのなら、最初から自分に自信なんてなかったのと同じだということなの?」
 と聞かれて、
「そうとも言えるかも知れないわ。確かに思い込みが激しいと、自己中心的になってしまって、他の人と協調できないんじゃないかしら?」
「でも、自分の意思を捨ててまで、人と協調しなければいけないのかしら?」
「私はそうじゃないかって思うの。人の言うことも一理あるわけだから、思い込みに走りすぎると危険なんじゃないかしら?」
 そんな会話をしていて、彩香は知らず知らずのうちに確率について考えている自分がいることに気が付いた。
――確かに他の人の多数意見がその場では強いかも知れない。まわりの人の意見が多数に寄ってくるのは当たり前のことで、一人でも相手の意見に賛同すれば、人数以上にその人の意見が強くなってくる。これは確率を超えた考えなのかも知れないわ――
 と思っていた。
「そうね。確かに多数意見というのは、絶対的な力を持っているのかも知れないわね」
 と彩香がいうと、
「その通りよ。でもね、その多数意見であっても、それはあなたの意見に対して、あなたの意見に賛同か、それとも反対かという意見でしかないのよ」
「どういうことなの?」
「あなたの意見が一つ話題に乗ったとするわね。でも、他の人はあなたの意見に対して反対だと言ったとして、だったら、自分の意見をその時にハッキリというかどうかというのが大切な問題になるのよ」
「ええ」
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次