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Peeping Tom

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5.蕩けるツール



 今日も今日とてケンタは右手で快楽を享受しています。

 そんなケンタを眺めながら、私達は、よくまあ毎日毎日飽きもせず股間から白い液体を放出できるもんだなあと呆れかえるような日々を過ごしていました。こんな風に、我々の心中に新たな変化を求める気持ちが頭をもたげ始めたころ、それに呼応するかのように、ケンタが突然、新たなる風を吹き込んできたのです。


「ぬちゅ、ぐちゅ、ぬぢゅ……」

 その日、再生を始めた私がまず違和感を覚えたのは耳から入ってくる音でした。モノとモノとが擦れ合い、その間を取り持つかなり粘性の高いと思われる潤滑油の音。何の音かはわかりませんでしたが、どこか性的な匂いのする、淫猥な音がその場に漂っていたのです。
 最初私は、別の動画と私の二つの動画を起動しているため、このような現象が起きているのではないか、そう思いました。即ち、この音はもう一つの動画の方から聴こえてくる、女性器を指で愛撫しているいわゆる指マンの音などで、その動画が再生されている最中に私が起動されたのではないかと考えたのです。
 普段、人に見せるものではないので気付きにくいですが、人によってオナニーの仕方は様々だったりします。普段親しいあの方も、ちょっと常人には理解しがたい方法で、一人昇り詰めている可能性だってあるんです。そんな変わった方法の一つとして、複数の動画を用いるというものがあります(もしかしたら、複数使う方がメジャーな方法なのかもしれませんが、いかんせん統計が取れません)。この方法も様々で、いわゆる気分を高めるための助走用とフィニッシュ用の二つを用いる方法、同じ女優さんが攻めているものと攻められているものとを交互に見てギャップを味わうといった方法。もしかしたら、同時に何個も動画を再生してお気に入りをたくさん見ながら発射する、なんて方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、ケンタはそのようなことはせず、「これ」と決めた動画と発射まで真摯に向き合うタイプです。そんなケンタが動画を複数起動させている、とすれば単純な操作ミスだろう。逸る気持ちを抑えて、もどかしい手つきでマウスを動かしたら、こういうことも起きうるだろう、私はそのように考えたのでした。
 しかし、ここで改めて目の前にいるケンタを見て不思議に思いました。先ほどからのいやらしい摩擦音と、ケンタの右手の動きとが、完全にシンクロしているのです。
「……音は、ケンタの股間から発せられている?」
 そう思い、ケンタをさらに良く観察してみると、普段よりも尋常ではない目つきで、息づかいもいつも以上に荒っぽく、時に小さく喘ぎ声すらも漏れています。
 私は「ははぁ」と感づき、彼の股間に目を移しました。予想したとおり、ケンタの右手には筒状の物体が握り締められ、その物体はケンタの陰茎をパクンとくわえ込むように包み込んでいました。そして、先ほどからの淫音はここから発せられていたのです。
「あぁ。オナホ、手ぇ出しちゃったか」
 私は複雑な気分でした。おそらくケンタは性交経験のない、いわゆる童貞の可能性が高いと思われます。女性の肉体を知る前に、快楽を求むるに最適化されたこの類のモノを多用したら、いざという時、意中の女性の膣内(なか)で射精できなくなるということを危惧するからです。ただでさえケンタは、こと快楽に関しては我々が舌を巻くほど貪欲です。そんな彼だからこそ、こういった身も心も蕩けるツールにハマってしまう可能性は高いと思われるのです。私は心中に暗雲が垂れ込めていくのを感じていました。

 そんな私の気持ちとは裏腹に、ケンタは初めて体験する至福の刺激に、普段は行わないシークバーを進める処理を行い、私の動画のお気に入りの場面━━いつものパイズリのシーンです、の少し前あたりを再生するよう覚束ないマウスさばきで指示しました。睾丸に溜まっている欲望全てを今すぐぶちまけたいという気持ち、でもその瞬間はお気に入りのシーンを目に入れながらにしたいという気持ち。快楽と忍耐とが脳裏で激しくせめぎ合う状況。それらに、ケンタは痺れるように蹂躙され、犯し尽くされているようでした。
 もう出しちゃいたい、でもまだ出したくない、アンビバレンツな感情に身をやつしながら、時おり画面から目を離して天を仰ぎ、小さく切なげな声を上げ、いつの間にか彼のペニスは、右手を微動だにできないほど限界にまで達していました。
 もう微振動だけでも暴発するギリギリの状況で、ケンタは、お気に入りの場面を一日千秋の想いで待ち続けました。しかし、残酷な時の流れは遅々としてその瞬間をやってこさせません。その間も、彼の中で快感と抑制とが激しく交錯し続けているのです。



 そして、ついに待ち望んだその「瞬間」。
「……!」
刹那、ケンタは烈しく右手を動かします。


 動画内の生徒のように、女教師の程よく汗ばんだ心地よい双球に包まれている感覚で、先生の胸や顔を自身の不潔な欲望で存分に汚してやろうという気持ちで、腰だけでなく体中をガクガクと快楽に打ち震わせながら、ケンタはオナホの中にたっぷりと精を吐き出したのでした。


 こんなことがあってからも、ケンタは、相変わらずオナニー三昧の日々を送っています。しかし、オナホの使用はせいぜい月1、2回にしているようです。私は、ケンタがそれほどオナホにハマることにならなかったのでホッとした反面、なぜこんなにオナホを濫用せずにいられるのか不思議に思いました。
 他の動画たちも同じ疑問を持っていたようで、私達は話し合いをして理由を推測しました。その結果、恐らくオナホが家族に見つかると非常に恥ずかしい上、下手したら家族会議になるだろうという理由で、さすがのケンタもオナホの使用は家族が全員出かけている時だけにしているのだろう、という意見で一致したのでした。


作品名:Peeping Tom 作家名:六色塔