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③冷酷な夕焼けに溶かされて

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裏切り


私は、ミシェル様から頂いた銀の剣を腰に差す。

ルーチェの騎士の制服に身を包み、兜をかぶろうとしたその時。

「…ルーナ様っ!?」

私室へ入ってきたララが、驚きに目を見開く。

「!…今日は、休みを与えていたでしょう?」

私が困った笑顔を向けると、ララが首を左右にふった。

「昨日のご様子がおかしかったので、気になって…。そ…そのお姿はいったい?」

私はそれには答えず、テーブルに置き手紙と共に残していこうとしていた、デューから持ってきていたネックレスを渡す。

「短い間だったけれど、ありがとう。これ、良かったら受け取って。」

「こんな高価なもの…頂けません!」

後ずさるララの手を包み込み、握らせた。

「あなたに、持っていてほしいの。」

そして笑顔で離れる。

「さようなら。」

私はそのまま身を翻すと、裏口から駆け出した。

途中で武器庫に忍び込み、もう一本、剣を得る。

そして私は広場が見渡せる木に登り、状況を確認した。

刑場となった広場には、この国の上層階級の騎士達のみが集まっているようだ。

多くの勲章を身につけた騎士達百名ほどが取り囲む処刑台には、親衛隊が十数名上がっている。

その処刑台を正面から見る位置に、ミシェル様は座っていた。

(とりあえず、あの一画を突破すればルイーズを確保できそうね。)

狙いを定め、私は木から飛び降りる。

そして、右手にミシェル様から頂いた剣、左手に武器庫から拝借した剣を持ち、全力で駆け出した。

皆は処刑台のルイーズを見つめていて、こちらに全く気づかない。

私は、まず無警戒の騎士の背中に斬りかかった。

右手の剣で、容赦なく背骨を叩かれた騎士はそのまま崩れ落ちる。

突然の出来事に驚いてふり返ろうとした両側の騎士を、左右の剣の柄で同時に殴りつけた。

「何者っ…!」

ようやく襲撃に反応した騎士が斬りかかってきたけれど、それも左手の剣で凪ぎ払い、右手の剣で肋骨を叩き折る。

「…ヘリオス!?」

騎士が叫んだ時には、私は処刑台へ飛び乗り、親衛隊と対峙していた。

「…。」

ルイーズのミルクチョコレートの瞳と一瞬、視線が交わる。

(やはり!)

その冷静な瞳に自身の行動が間違っていなかったと背中を押された私は、真っ直ぐに台下のミシェル様を見下ろした。

「私はヘリオス!」

そう叫ぶと同時に、ルイーズの傍にいる騎士達を凪ぎ払う。

「ヘリオスとして、親交国のルイーズ王子を助けに来ました!」

言いながら、ぐるりと騎士達を見回した。

「!」

私の宣戦布告に、騎士達がどよめく。

「ヘリオスって、女だったのか!?」

「待てよ、てことはヘリオスの正体は…」

「いや、まさかあり得ねーだろ!」

動揺する親衛隊は、戸惑いを隠せず反応が遅れた。

その隙に私は次々と親衛隊を倒し、ルイーズの縄を解く。

「さ、逃げるわよ!」

「いや、私はミシェル様のお側を離れない!」

ルイーズが抗うことは、想定済みだった。

私は丸腰のルイーズに、倒れた親衛隊から奪った剣を投げる。

「ならば私と勝負よ!私に負けたら、人質として共に来て。」

私がそう言った瞬間、台下から低い声が聞こえた。

「面白い。皆、降りろ。」

ミシェル様の命令で、親衛隊達が処刑台から飛び降りる。

処刑台の上には、私とルイーズだけになった。

ルイーズは戸惑った表情を見せながら、剣に手を伸ばす。

けれどその時、台下から槍が投げ込まれた。

「ヘリオスを殺せ。」

ミシェル様はギラギラとした瞳で、ルイーズを見上げる。

「…はっ。」

ルイーズは槍を手に取ると、素早く身構えた。

けれど、その瞳はこちらの様子をうかがうばかりで攻撃に転じない。

(先に攻撃を仕掛けた方が負ける。)

互いに力が拮抗していることを悟り、膠着状態が続く。

(けれど、このままでは埒が明かない。)

私はルイーズと睨み合いながら、ジリジリと場所を移動した。

そして、先ほどルイーズに渡そうとした剣が置かれているところまでくる。

(隙を作り、攻撃をさせよう。)

「…っあ!」

私はわざとその剣に足をとられたふりをし、バランスを崩した。

その瞬間、想定以上のスピードで槍が突き出される。

その速さと正確さは今まで見たことがないレベルで、攻撃をかわすのが精一杯だ。

(これが『ルイーズ』。)

古くからの親交国だった隣国の王子ルイーズとは何度も戦場を共にしたけれど、こうやって刃を交えるのは初めてだった。

世界一と謳われた槍術はやはり素晴らしく、その強さと美しさに初恋のときめきがよみがえる。

けれど、これは鍛練でも何もない。

命を懸けた実戦だ。

二刀流で攻撃をかわしながら、ルイーズの攻撃の癖を見極める。

槍はリーチが長いので攻撃が広範囲に渡る反面、得物をふりまわす時にわき腹が無防備になりがちなのだ。

そこを突かれないよう巧みに攻撃パターンを変えてきているけれど、やはりある程度のリズムと癖は生まれる。

私はそれを見極めると、その隙を狙った。

(次にふりかぶった時に、攻める!)

そして狙っていた瞬間が訪れると同時に、私はその懐に飛び込み、左手の剣で槍を押さえ、右手の剣をルイーズの首筋に当てる。

(勝った…!)

ルイーズのミルクチョコレートの瞳と、視線が絡んだ。

すると、敗北を認めると思いきや、その瞳が邪悪に細められる。

「!?」

身を退こうとしたけれど、間に合わなかった。

いつの間にか槍から離されていた左手が、私の首をとらえる。

「…ぐっ!」

「なめてんのか?実戦だぞ、これ。」

ルイーズはそう言いながら、私の首を片手で締め上げ、宙吊りにした。

その圧力と苦しさに、意識が遠退く。

「お疲れ、ヘリオス。」

耳元で聞こえた声は、ルイーズか、ミシェル様か…。

その判断もつかないほど、私の体から意識と力が失われた。