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異能性世界

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 女性と付き合ったことは、学生時代に二度ほどあるだけで、大人の恋愛を経験したことはなかった。女性と知り合うだけで新鮮な気分に陥るのは、それだけ寂しさがマンネリ化していたからなのかも知れない。本当なら有頂天になって我を忘れるほどなのだろうが、思ったよりも落ち着いていられるのは、新鮮さを一番に感じたからである。
 ただ、その女性は少し変わっていた。
「私は、毎日を繰り返しているのよ」
 普通に聞いていれば、聞き流す程度の発想である。それだけ毎日を飽き飽きするような生活を送っているということを言いたいだけで、自分が自覚している中でも、一番どうすることもできない漠然とした課題だったからだ。
 しかし、彼女の話は少し違って、真剣みを帯びて感じられた。
「私は、本当に毎日を繰り返しているように思っているんですよ」
「それは、一日が終わって、また知っている一日が始まるという感じですか?」
「それに近いかも知れません。ただ、前の日にいた人が次の日にもいて、記憶にある行動を取っているんですね。まるで夢を見ているかのようなんですよ」
「相手の人は、あなたのことを覚えているんですか?」
「それが、話をすることがないので、分からないんです。話しかけられる雰囲気でもないという感じですね」
「じゃあ、俺はあなたが繰り返している日の中に登場してこないのかな? もしそうであれば、明日になれば、あなたと会うことができなくなるのを示しているんですが」
 とは言ってみたが、その人を、ここ数日感じているのも事実だった。彼女が本当に毎日を繰り返しているのであれば、会うことはないはずなのにである。
「そうですね。そうなります」
「でも、俺はあなたをここ数日意識していますよ」
「それは、私であって、私ではないんでしょう。違う世界の私なのかも知れませんね」
 何となく話が難しい方に向かっているが、理解できない話ではなかった。
 毎日を漠然と繰り返しているという感覚は漠然とあったが、彼女の言っている「繰り返している」という意味とは違っているようだ。もし、漠然としてであっても、繰り返しているという感覚が少しでもなかったら、その違いに気付くことはなかっただろう。
 気付くことがなければ彼女を意識することもなく、
――鬱陶しいことをいう女だな――
 としか思えないようになっていたに違いない。
 その人の理屈は、話しているうちに分かってきた。最初は輪郭から入り、そしてまわりから攻めてくるように内側を固めようとする考え方が修の考え方だが、彼女の話と合ってきたのだろう。話し方も最初に感じた、まくしたてるような話し方が次第に相手を説得しようとする必死さが生んだものだと分かると、こちらも身構えて話を聞こうとしていた態度から、次第に余裕が持てるようになる。相手に合わせて話を聞こうとせずに、柔軟な態度が話への理解を深めることに、その時初めて気づいた修だった。
 彼女は名前をリナと言った。本名なのかどうか分からないが、
「名前もカタカナで書くのよ」
「まるで外国人みたいだ」
「宇宙人かもよ?」
 と、含み笑いを浮かべたので、こちらも笑みを返した。まるで修のいつも考えている、
「地球星人」
 の考え方を知っているかのようだった。いや、他の誰かと話しているのを聞いていたのかも知れない。
 その日はリナとの不思議な話を終えて、その日が終わった。その日の眠りは深いものだったのだろう。翌日目を覚ますと、目が覚めてくるにしたがって最初に意識したのはリナのことだった。
「やっぱり夢の中で出会った女性だったのかな」
 普段であれば、夢に見たことは目が覚めるにしたがって、意識から消えていき、記憶の奥に封印されていくものだが、リナの存在が意識から消えることも、記憶の奥に封印されることもなく、目が覚めると、確かに彼女と昨日話をした意識だけが残ったのだ。
「不思議な出会いだった」
 それでも現実には思えず、
――夢と現実の狭間で引っかかっている記憶なんだ――
 としか思えないのだった。
 リナにまた出会えそうな気がした。昨日リナと出会ったのは、駅まで向かう交差点を超えたところだった。会社の帰りの日が暮れかかった時間、夕凪の時間と言ってもいいだろう。その時間、目の前に交差点を意識すると、リナに声を掛けられたのだった。
 その日も普段と変わりない、退屈な仕事を終えて、気が付いたら定時になっていた。残業もなく、
「お疲れ様でした」
 仕事を終えて、充実した気分になるなどという思いとは程遠い中、とりあえず形式的に挨拶をして、会社を出た。せっかくのアフターファイブ、何かをする時間は十分にあるはずなのに、何もする気にならず、ただ家路を急ぐだけだった。
 急いで帰っても、何かがあるわけでもない。扉を開ければ部屋の中から冷たい空気が溢れ出るのを足元で感じながら、虚しさだけがそこにあるのだと思うだけで、何の感慨もあるわけではない。そんな中、その日は駅から交差点までの間、普段とは少なからず違いを感じながら歩くことになるのだった。
――リナがいるかも知れない――
 もしいなくても、ショックがないように、いない時のことも考えている。
――どうせ、毎日同じことの繰り返しなんだ――
 と思うことで、簡単に消沈してしまった意気を忘れることができる。
 修の毎日は、絶えず言い訳ばかりを考えながらの暮らしとなっていた。
 他の人と日々関わりを持っていれば、もう少し違った発想になったであろう。少なくとも、毎日を退屈しながら過ごすことはないだろう。だが、他の人に合わせることを嫌う修は、退屈であっても、人に合わせることをしない人生を選んだ。ただ、来る者は拒まない性格でもあるので、リナのように寄ってきた人を無下に遠ざけるようなことはしない。
 特に相手が女性であれば余計に遠ざけるようなもったいないことはしない。それは女性に対してなら、自分が上位に立てるからではないかという思いも強いからだ。ただの「女好き」というだけではないのだった。
 電車を降りるまでは、普段と変わりがなかった。いつもの時間にいつもの電車、そして乗客も皆同じに見えた。しかし、前の日と比較して電車に乗るなど初めてのことだったので、乗客が同じだったかどうか、怪しいものだ。改めて見ていると、皆何を考えているのか、本当に面白くない顔が誰からも滲み出ていた。
――俺も、同じような顔をしているのだろうか?
 ただ、皆と同じが嫌だといつも思っているくせに、こんな時だけはホッとしてしまうことに気付いた自分に、少し苛立ちを覚えた。時と場合によって違うという言い訳は、あまり好きではないからだった。
 駅で電車を降りて、交差点までは一本道、本当にいれば、自分はどう対処すればいいのだろう?
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次