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優しさの在り処

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優しい人が好き。よく耳にするありきたりな言葉だ。特に男性が女性に好きな異性のタイプを聞いた場合にこのような返答が得られる。食事奢ってもらえる飲み会と称した合コンの場で横にいる友人がそのままの返答をしたときに私にはそれが彼女の本心なのか当たり障りのないことを言っただけなのかすぐにはわからなかった。何れにしても大抵の人は優しい人が好きなのだから彼女の返答は正しい。私だって恋愛相手に求める第一条件ではないにせよ優しい人は嫌じゃない。しかしながら問うた男性からするとその返答は少しばかり不服であったらしくどうして優しい人なのかとさらに問いかけた。そう聞かれると彼女は少々困った様子で口籠った。所謂そういった経験の少ない真面目な彼女からしたら優しい人が好きであることに疑問を持たれるとは思わなかったのだろう。彼女の答えに詰まった様子を見遣ると目の前の男性は如何にも面倒そうに浮気されたくないんでしょと言ってのけたのだ。なるほど、こちらの男性は彼女が優しい人が好きであること自体に疑問を持ったわけではなく、もっと具体的な話をしたかったらしい。そして彼からすれば浮気しない人がイコール優しい人であるらしかった。兎にも角にも、お互いに好みの人物でないことだけはこのときにはっきりとわかった。昨今の性事情は置いておいて、どちらかといえば貞操観念の強い方である私達はこれはダメだなと思いながらも適当に会話しながら美味しい食事とお酒を楽しむことにした。女性陣にはこのような目的の切り替えができるのだが男性陣はこういった場合なにを楽しんでいるのだろう。男性目線になって考えて見たものの結局よくわからなかった。彼らの目を楽しませるほど露出していたとも思えないし、それほど楽しい会話もなかっただろう。強いて言えば帰り際の君たちと話して懐かしかったという言葉に、年の差がある場合には若い子との会話は貴重なのかもしれなかった。彼ら好みのもう少し軽い女性を紹介しても良かったが、自分にとって優良物件とは言い難い男性を勧めるのは気が進まないし(それが双方に喜ばれるとしても)おそらくここで別れてこれっきりになる男性にそこまでする義理もない。高級料亭に行ったわけではないのだ、女性の食事代ぐらい決して痛い出費ではないだろうと自分勝手に判断して各々帰路に着いたのだった。

こういった合コンの一幕を見ても、言葉がいかに曖昧であるか見て取れる。言葉にしないとわからないこともあるが、言葉にしたところで伝わらないことはあるのだ。優しい人が好き。ここでいう優しい人とは広い範囲を示しているようで実際にはなにも示していないか限定的な狭い範囲を示しているのだ。私の友人が好きな優しい人とはおそらく前者である。よりふわふわと叙述するならば優しい笑顔とか、優しい口づけとか、優しい態度とかである。彼女の言った優しい人は彼女にとっての優しい人である。彼女が何かを優しい行動だと思うことがあってもそれがその人を優しい人にするわけではない。逆に、彼女にとっての優しい人が何か行動をしたならばそれは優しいのだ。優しい人が好き。ここまで考えてみると彼女の好みはこの言葉の中にほとんど反映されていないことがわかる。誰でもいいということではないのだろうがこれでは好みは伝わらない。結局のところ彼女は好意的に想う人を優しいと思うので、好みのタイプを優しい人と称しているだけなのだ。なにをもって優しいとするかという観点は元よりないのである。

もう1つの優しい人として、相手の男性が言った優しい人を例に挙げよう。ここで述べるのは、あくまでも彼からしてみた彼女にとっての優しい人(男性)である。彼にとっての優しい人(女性)は知らない。我関せずだ。しかしながらこれは考えるまでもなく、彼が答えを言っていた。優しい人とは、浮気しない人だと。すなわち、浮気しないという誠実な行動を取ることが優しさであるし、それを実行できる人が優しい人なのだ。ここで少しだけ脱線すると、私の勝手な気持ちだが、浮気しないというのは別段優しくはない。浮気しないことはプラスでもマイナスでもない。当たり前だ。私ももう大人であるし、人の話を聞く限りでは世の中浮気する人が多くいるのは否定できない事実だが、浮気しないなんて優しいわね!とはならないのだ。もちろん浮気したら最低なのだが。こちらから脱線させておいて申し訳ないが、この際浮気しないことが優しいかどうかは置いておいてほしい。話を戻すと彼にとっての優しさは浮気しないという行動に起因しているのだ。優しい行動を取れる人が優しい人なのだとするとそれが示すのは先に述べた限定的な狭い範囲ということになる。優しい人が好き。この時点で、少なくとも浮気する人は除外されるのだから。しかしながらここで疑問に思うのは優しさとは何処にあるのだろうということだ。彼女の言うとうりであればおそらくそれは好意的に想う相手に見出されるものであるし、彼の言う通りなら浮気しないことそれ自体が優しさだ。じゃあ例えば、浮気癖のある人が優しくしようと思って意図的に浮気をしなかった場合、それは優しいのだろうか。いや、相手を想っての行動は優しいと言って差し支えないのだろうがじゃあその人は優しい人なのだろうか。彼女のことも彼のことも一度忘れて欲しい。優しい人は優しいのだろうか、優しくしているのだろうか。私が言いたいのはつまり、それが天然か人工かみたいなありきたりな話なのだ。

合成宝石を見たことがあるだろうか。イミテーションではなく天然の石と全く同じ元素でできた宝石であり、天然のものよりは低価格で手に入る。宝石の鑑定士がしっかり鑑定すれば区別がつくのかもしれないが、どちらもとても綺麗なものだ。区別がつくかもしれないと曖昧に濁したのは、元素まで同じであればその性質も同じであるから区別がつかなくてもおかしくないのだ。ただ、例えば区別がつくように品質保証書があったり、どこかに品質保証のマークなどが彫られているかもしれないなと思っただけである。じゃあどっちでもいいのかと言われるとそうでもない。私個人的には天然の宝石がもらえた方がなんとなく嬉しい。しかし天然だといわれて合成宝石を渡されてもきっと気がつかないだろうし、喜んで身につけるだろう。男性にはあまり教えたくないことだが、これを期にルビーやサファイアなどの宝石は合成宝石として少し安く手に入ることを知っておいて損はないだろう。これを読んだ女性に伝えておきたいこととしては、合成ダイヤモンドは流通していないということだ。流通しない理由としては、合成ダイヤモンドは天然物よりも生産コストがかなり大きいからだ。もし彼からダイヤモンドを贈られたならそれは間違いなく天然ダイヤモンド(イミテーションでなければ)である。
作品名:優しさの在り処 作家名:坂下絵真