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ふしじろ もひと
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novelistID. 59768
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『塔の姫』 ~アルデガン外伝0~

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ある夜地穿つ破滅の雷
天空焦がす紅蓮の大火
侍女の悲泣聞かずとも
疑い得ざる王城の滅び

侍従が退路へと導けど
なおも破れぬ守護の術
無情にも姫を連れ戻す
獄舎と化したる銀の塔

この結果をば恐れつつ
弟の言になぜ迷いしや
ただ一瞬の解放の夢に
惑いし罪へのこれが罰

戻りし侍従や侍女達に
覚悟にじませ告げる姫
落ち延び給えそなた達
我と共に死ぬは許さぬ

我が身の自由に心惑い
王を止めざる我のため
滅せし者ぞいかばかり
免れ得ざるこの身の咎

民導くことも叶わぬ身
王族の責務果たせぬ今
そなた達に託す他なし
王族として最後に命ず

見つかる限りの民草を
引きいし旅の守りにと
扉の守りの魔晶石托し
気丈に侍従ら送り出す

振り返りつつ去る後姿
見送りし姫は念じたり
秋の風より浮き出ずる
初霜のごとき人影の白

見上げる深く碧き目を
見下ろす瞳に揺ぎなし
思いを秘めし面差しに
魔性の乙女も応じたり

我が正体を知りながら
呼び寄せしとは珍しや
ならばしばし耳傾けん
我に告げんとする言葉

ああ魔性でありながら
賢者の相を併せし者よ
御身は全てを覚えしか
この世に起きし事々を

否と答えし黒衣の乙女
我が記憶に留めたるは
己が道行きに交わりし
僅かな数にすぎぬもの

たどる旅路の長さゆえ
見えしものも多かれど
定めに抗うすべなき身
知り得ぬ事もまた多し

その声のいと柔らかく
仄かな寂寥帯びたれば
胸に迫りし万感の念に
解きほぐされし姫の心

自らの境遇語りし後
慰謝と共に続けたり
御身もまた虜囚なら
理に抗えぬ身なれば

思い託すに足る者よ
敵の手に落ちたれば
嬲り殺しの他なき身
贄となるは厭わねど

されど僅か半年の前
あれは今年の春盛り
森の側にて摘みし花
瞼に浮かぶ鮮やかさ

かの花の色のみならず
陽光浴びたる地も森も
眩しきばかりの蒼穹も
はや夢幻かと思うのみ

あの時の我は何ひとつ
憂いの影も知らざりき
罪深きことと思いつつ
無垢への未練断ち難し

数多の思いに支えられ
無垢でいられし有難さ
今はただただ口惜しき
無垢でありし愚かしさ

数多の者の逝きし今
御身に見え語れしは
我が僥倖に他ならず
無常を渡りし旅人よ

散る他なき思いをば
御身に托し散華せん
骸は地下に封じ給え
塵に還るが我が願い

定かならざる未来ゆえ
無に還るかは判ぜねど
我が忘れることはなし
汝の告げたるその思い

守り破れし戸を潜り
歩み入りたる白き影
姫も階下に降り来り
死の抱擁に身を委す

幻術破れし銀の墓所
早くも訪れたる者は
詣でる者の筈もなく
敵たる黒髪の民の王

見い出す者をば悉く
剣の錆にさせながら
目にしたるは銀の塔
あれぞ宝の蔵ならむ

見出す品々荒しつつ
残る地下室暴くため
扉を破り踏み込めば
麗わしの骸見出せり

やよ小癪なる民の姫
咎を怖れ果てようと
見逃す余と思いしか
刻みて野に晒すまで

言い捨て踵返せども
背より絡みし白き腕
声出す事も能わずに
牙の贄となり果てし

そは遠き昔の遠き世界
人と魔織りなす昏迷の
翳濃き雲間に垣間見ゆ
うたかたのごとき物語