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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「つまらん誉め言葉なんか真に受けないほうがいいぞ。貴重な休日を仕事に捧げてたら結婚し損ねちまうからな。あーもう、ほんま腹立つ! 今日は恵ちゃんとデートだったのに!」
 きょとんとする美紗に構わず、小坂は大声で喚き散らした。口ひげに手をやりながら英文書類に目を通していた高峰3等陸佐が、たまらず失笑をもらした。
「全く、幹部のセリフとは思えんな。その彼女のほうも呼集かかったんじゃないのか。下の階はかなり人が出て来てたぞ」
「恵ちゃ……、あ、大須賀さんのトコには特に連絡なかったそうです。8部はN国マターあまり関連ないですし。ああ、やっと休日に会う約束を取り付けたのに……」
 プライバシー丸出しで愚痴り出した小坂を遠慮がちに見やりながら、美紗は佐伯のほうに歩み寄った。
「何かできることはありますか?」
「今日は取りあえず電話番と連絡係を頼めます? あちこちからN国絡みの電話が入って、対応に追われて困ってたところなんですよ。鈴置さんのところでまず集約して、うちのシマの各担当に割り振ってください。あ、これ、N国絡みの調整関係の担当割り」
 佐伯は乱雑に書かれたメモを美紗に渡した。
「それから、部長とうちの班の面々の動きを把握しててくれますか。基本的には高峰3佐に留守番役してもらっているんですが、彼ももう少ししたら会合があるそうなので」
 口ひげから手を離した高峰は、かすかな笑みを浮かべて美紗に小さく会釈をした。彼の参加する「会合」とは、おそらく公にはできない類のものに違いない。美紗はちらりとそんなことを思いつつ、黙って会釈を返し、佐伯のほうに視線を戻した。
「あと、各地域担当部からどんどん情報が上がってくるから、ヒラ情報だけ逐次チェックして、重要なものだけマーキングして西野1佐とうちの班でシェアできる状態にしてください。何が重要かの判断は鈴置さんに任せます」
「はい」
「この作業は、申し訳ないけど、週明け以降もしばらくお願いすることになると思います。今回は少々長引きそうですね。現時点での感触では、N国のバックに隣の某大国がいる可能性が大のようだから」
 いささか不吉な言葉を口にした佐伯は、露骨に不安げな顔をした美紗を見て、慌てて「いやいや」と手を振った。