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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「君は朝になるまでここで休んでいればいい。フロントに鍵を返すだけでいいようにしておくから」
「で、も……」
「防衛マターだから市ヶ谷でも何らかの動きがあるだろうが、幹部でない君が真夜中に呼ばれることはないはずだ」
 日垣は、上掛けの上から美紗を強く抱きしめた。そして、悲しげな唇にそっと口づけると、灯りの無い部屋から足早に出ていった。

 いつの間にか、気を失うように眠っていた。ふと目を開けた美紗は、ベッドに横たわったまま、シティホテルの無機質な室内を見回した。独りだけの暗い空間は、異様に静かだった。
 ぐったりと重い身体を起こすと、下腹部がつきんと痛んだ。上掛けの上に置かれていたナイトウェアが目に入る。美紗はそれで体を包み、ベッド脇の高窓に歩み寄った。遮光カーテンを少しずらすと、眩しい日の光が部屋の中に入ってきた。眼下に見える幹線道路には、車がほとんど走っていない。
 美紗はカーテンを大きく開け、疲れたように溜息をついた。「いつもの朝」なら、まだ彼の体温を感じながらまどろんでいる頃だ。昨夜の熱が夢であったかのように、ひっそりとした部屋の空気が寒い。
 あの後、電車もない時間帯に永田町へと戻ったあの人は、徹夜で働いていたのだろうか……。そんなことを思った美紗は、はっと目を見開き、作り付けの机の上に置かれたテレビをつけた。
 さほど大きくない画面には、「緊急速報」の文字が躍っていた。日本近海の地図と首相官邸の映像が、交互に映し出される。センセーショナルにまくし立てる男性アナウンサーは、日本海の排他的経済水域付近で国籍不明の潜水艦らしきものが「飛翔体」を打ち上げたらしいという内容を、繰り返し伝えていた。