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ショートショート集 『一粒のショコラ』

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ー20ー 愛すべき男


 俺の友人に変わった奴がいた。そいつは、稀にみる超ポジティブ思考の持ち主で、かなりの自信過剰男だった。
 そいつは誰が見ても平凡な容姿だったが、自分はイケメンだと胸を張った。その上、学校の成績は中くらいだったが、どこの大学にでも入れると豪語していた。すべてにおいてそんな調子だったから、普通ならみんなから敬遠されるところだが、どこか憎めず、不思議と誰からも好かれていた。
 そして、案の定、そいつは一流とは呼べない大学に入り、聞いたことのない会社に就職した。
 卒業後、俺たちのクラスは、オリンピックの年にクラス会を開くようになっていた。その度にほとんどみんなが出席するのは、あいつの動向が気になるからだろう。つまりは、俺たちの人気者なのである。
 そんなあいつが、ある年のクラス会で結婚宣言をした。彼女はすごい美人だという話に、俺たちはあいつらしいと大いに盛り上がった。ところが、そんな空気が一変する事態が起きた。あいつがみんなに見せた彼女の写真が、あまりにも美しかったからだ。
 今まで、あいつがどんなに自慢しても嫌味を感じさせなかったのは、事実とかけ離れていて、話に愛嬌があったからだ。ところが、今回は違っていた。誰がどう見ても、その彼女は正統派の美人だった。この彼女をいつもの調子で自慢されたのでは、こちらとしても正直面白くない。俺は内心、にぎやかなクラス会は今回が最後になるかもしれないと思った。

 そして訪れた結婚式当日、数人の友だちと式に招待された俺は、披露宴会場の席に着き、新郎新婦の入場を待っていた。そして、あの写真は冗談で、ごく普通の女性が現れることを、密かに期待していた。あいつはずっとあいつらしくいてほしかったからだ。
 ところが、あいつとともに現れた花嫁は、ウエディングドレス姿のせいもあってか一段と美しかった。が、なんと、その花嫁は車椅子に乗っていた。あいつがその車椅子を押して堂々と入場してきたのだ。そして、正面のひな壇に着くと、あいつはやさしく彼女を抱き上げ、車椅子から移動させた。
 会場中は、静まり返ってその様子を見ていた。だが、次の瞬間、何事もなかったように祝宴は始まり、花嫁花婿は満面の笑みを浮かべ、何度も互いを見つめ合った。ふたりは本当に幸せそうだった。
 祝宴後、俺はロビーで親族たちが話しているのを耳にした。それによると花嫁は難病で、医者も匙を投げたらしい。一時はかなり衰弱して危なかったらしいが、花婿がつきっきりで励まし、勇気づけ、ともに乗り越えて、ここまで回復したのには誰もが驚いたという。その献身的な支えが奇跡を呼んだのだろうと口々にあいつを称えていた。
 披露宴では、そんな苦労話は一切でなかった。楽しい話だけが語られ、いつもあいつの周りがそうであるように明るさに満ちていた。それはまさしく、花嫁に夢のような時間を味わわせてあげたいというあいつの想いが溢れた披露宴だった。やっぱり、あいつは何も変わっていない、俺たちの人気者だったのだ。
 このことをこっそりみんなに伝え、四年後にまた楽しいクラス会を開こう。そうだ、その時にはあの花嫁さんを招待しよう。そして、あらためて、クラスのみんなであいつを祝うのだ。