小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

月夜に恋ひとつ

INDEX|1ページ/10ページ|

次のページ
 
 僕の名前は奈音(なおと)。今年で六歳になる。僕は幼稚園に通っている。幼稚園では友達がたくさんいるけれど、友達と遊ぶよりも絵本を読むことの方が好きだった。幼稚園に置いてある絵本は一通り読んだ。しかし、これといって僕の好きなものはなかった。今日も絵本を読んでいた。何度目だっただろうか。同じ絵本でも僕は何度も読んでいたのだ。それでもその方が友達と遊ぶよりも楽しかったのだ。

 僕のパパは世間で言えば、ごくごく平凡なサラリーマンだ。趣味はギターを弾くことだ。その姿は他の誰よりも格好良かった。それ以外はごくごく平凡で、いつも優しくて良いパパだった。

 僕のママは専業主婦で、趣味は料理をすることだ。そのせいもあってか、僕のお弁当はいつも美味しかった。幼稚園の友達に見せるとみんなが羨むぐらいのお弁当だった。

 この日、僕は幼稚園で絵本を読んでいた。


 タイトル「うさぎの声」

うさぎさん うさぎさん

どうして何も話してくれないの?

私のことが嫌いなの?

うさぎさん うさぎさん

どうして何も言ってくれないの?

私のことが嫌いなの?

うさぎはひとことも喋らなかった

うさぎさん うさぎさん

今日は何をして遊びたい?

いつもの遊びは飽きたでしょう?

うさぎさん うさぎさん

何か言って欲しいよ うさぎさん

うさぎさん うさぎさん

私 寂しいよ 悲しいよ

「僕ね みきちゃんと遊べるなら

何をして遊んでも楽しいよ」

うさぎさん うさぎさん

やっと話してくれたね

うさぎさん うさぎさん

私 すごく嬉しかったよ

うさぎさん うさぎさん

あなたの声が聞けて嬉しかったよ

あなたの気持ちがわかって嬉しかったよ

うさぎさん うさぎさん

またいつもみたいに遊ぼうね

うさぎさん うさぎさん

「うん またいつもみたいに遊んでね」


 そうしているとママが迎えに来た。
「奈音!」
そう僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ママ!」
「先生、今日もありがとうございました。」
「いいえ。気をつけて帰ってくださいね。」
そう言うと僕はママに連れられて家へ帰っていった。その途中でこんな会話をしていた。いつものことだった。
「今日はどうだった?」
ママが僕にこう言った。
「いつもと同じだよ。」
僕はいつもと同じ台詞を返した。
「また絵本ばかり読んでいたの?」
「うん。」
「お友達とは遊ばないの?」
「だって絵本を読んでいる方が楽しいんだもん。」
僕は決まってこう答えていた。
「そう…でもたまにはお友達とも遊んだら?」
「いいんだよ。絵本の方が楽しいから。」
「そう…」
ママはいつもの会話で不安そうな表情を浮かべていた。僕に友達がいないと思っているのだろう、そう思った。そして僕とママは家へ着いた。

 「ただいま。」
「手を洗ってうがいをしなさい。」
「はーい。」
僕は手を洗ってうがいをした。
「もうすぐごはんだから待っててね。」
「うん。絵本を読んでるから呼びに来てね。」
「わかったわ。」
そうすると絵本を読み始めた。


 タイトル「スピカ」

お星様は真っ白だった

お星様はひとりぼっちだった

お星様は他のお星様と違う色をしていた

お星様はみんなと違う色をしていた

お星様はそのせいで他のお星様にいじめられていた

お星様は寂しかった

お星様はこう言った

「ねぇ、誰か私と遊んでよ。」

「嫌だよ。」

お星様は悲しかった

お星様はひとりぼっちだった

そうするとあるお星様がひとりぼっちのお星様に話しかけた

「僕と遊ぼうよ。」

真っ青なお星様がこう言った

お星様は嬉しかった

それからお星様はひとりぼっちではなくなった

そして真っ白なお星様は

真っ青なお星様と仲良くなった

それから真っ白なお星様と

真っ青なお星様はずっと一緒にいるようになった

そしてその星はふたつでひとつの名前で呼ばれるようになった

真っ白なお星様と

真っ青なお星様は

スピカと呼ばれるようになった


家にあるどの絵本も僕は何度も読んでいた。しかし、家にも僕が夢中になれる絵本はなかった。それでもそれしかなかったのだ。そしてごはんの準備が出来るとママが僕を呼びに来た。
「奈音!ごはんよ!」
「はーい。あれ?お姉ちゃんは?」
僕には九歳の小学三年生の純子というお姉ちゃんがいる。お姉ちゃんは普段は優しいが、時々意地悪なことを言ったりもする。お姉ちゃんは僕とは違い、絵本や本を読むことよりも友達と遊ぶ方が好きな子だった。
「今日は友達の家に遊びに行ってるの。」
「ふーん。」
そう言うと僕とママはごはんを食べ始めた。この日はとんかつだった。
「いただきます。」
「召し上がれ。」
「ねぇ、奈音…」
「なぁに?」
「幼稚園は楽しい?」
「うん…まぁまぁかな。」
「そう…」
僕が友達と遊ばないことをやっぱり心配しているようだった。
「ごちそうさま。」
「はい。お皿はさげてね。」
「わかってるよ。」
そうするとお姉ちゃんが帰って来た。

 「ただいまー。」
「おかえりなさい。」
「おなか空いたー。」
「手を洗ってうがいしたら食べなさい。」
「はーい。」
そうするとお姉ちゃんは手を洗ってうがいをして、ごはんを食べ始めた。そして僕は自分の部屋へ戻っていった。もちろん絵本を読んでいた。そして夜も更けてきたので、僕は歯を磨いてベッドに入った。

 「奈音!」
お姉ちゃんが呼ぶ声がした。
「入るわよ。」
「うん。」
「あ!また絵本を読んでる。」
「うん。いけない?」
「いけなくはないけど…」
「友達と遊んだりはしないの?」
「うん、あまりね。」
「絵本より友達と遊ぶ方が楽しいよ。」
「でもたまには遊んでるもん。」
「たまにじゃなくて毎日遊びなよ。」
「嫌だよ。」
「どうして?」
「絵本が大好きだから。」
「そんなに面白い絵本あるの?」
「うーん…」
「まぁまぁ…かな。」
「それなら友達と遊べば?」
「でも…」
そんな会話をしていた僕は眠くなっていた。

 そして気付くと僕は眠っていたのだった。その間にパパが帰って来た。そしてパパとママはこんな会話をしていた。
「ねぇ、あなた…」
「どうした?」
「奈音がね、幼稚園で友達と遊ばずに絵本ばかり読んでいるらしいのよ。」
「そう…」
「心配じゃない?」
「確かにそれは少し心配だな。」
「少しじゃないわよ。大丈夫かしら。」
「先生に相談してみたら?」
「そうね。明日話してみるわ。」
そうすると会話は終わり、パパとママも眠りについたようだった。

 そして翌朝、僕はママに連れられて幼稚園に行った。今日はどの絵本を読もうかと僕はずっと考えていた。そして幼稚園に着いた。
「それでは奈音をよろしくお願いしますね。」
「はい。」
「あの…少し相談があるのですが…」
「はい、何でしょうか?」
「今、お時間は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」

 そうするとママと先生は僕に聞こえないように話し始めた。僕に聞こえない理由は当然僕が絵本に夢中になるからだ。
「奈音なんですが、いつも絵本ばかり読んでいるみたいで…」
「ええ。奈音くんはいつも絵本を読んでいますよ。」
作品名:月夜に恋ひとつ 作家名:清家詩音