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逆行物語 第六部~奇跡の軌跡~

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トラオクヴァール~女神の化身~



 今年も領主会議の時期が来た。政変を乗り切り、ツェントになってからと言うもの、何時もギリギリで綱渡りしている心地だ。
 グルトリスハイトの持たぬツェント。中央神殿からはツェントと認められてはおらず、後ろ楯である大領地に右往左往する。
 そうして、やっとまた1年が始まるのだ。

 貴族院で領地のディッター順を読み上げると次は成績が優秀な個人を表彰する。上の学年から下の学年に順に下りていく。
 そして1年の最優秀の名を読み上げる。

 「最優秀、エーレンフェストの領主候補生、ヴィルフリート、同じくエーレンフェストの領主候補生、ローゼマイン。」

 通常1人の最優秀に異例の2人。これには訳がある。2人が優秀過ぎて、優劣が付けられない、と言う理由が。
 まず全ての講義で一発合格と言う事が2人共だった。その時点で成績が同じである。次に新たな流行を作ると言う点では女性領主候補生が得意の様で、よって社交の主題としても有利であった。
 しかし男性領主候補生は、その為に必要な事を全て把握しており、主題を相手が理解しやすい様に会話に入られて、さりげなく誘導して、上手く利を上げている。
 目立つのは女性領主候補生であるが、それだけでは何れ歪みが出るだろう。悪い事に歪みが出ていると、視野が狭くなり、巻き込まれる全員が何も見えなくなるのだ。
 だからこそ、教師陣の評価は男性領主候補生の方が高いが、あくまで成績外を含めての話になるのだ。しかしだからと言って、目立つ女性領主候補生を最優秀にするのは違う…。
 そこで話し合った末、2人を共に最優秀にしようと決まったのである。
 エーレンフェストのヴィルフリートは、同じくエーレンフェストのローゼマインをエスコートしている。
 周りは最優秀が2人居る事に驚いていた。
 私が言葉を贈ろうとした、その時だった。突如、天井から神々しい虹色の光が降りてきた。
「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
 その驚愕は声に出ない。だがこの場に居る全員が驚いただろう。
 その美しい光はローゼマインの体に降り注ぎ、そして、

 彼女の体が宙に浮いた。

 光は粒子となり、彼女の周りを漂う。まるで彼女に従っている様だ。そして、彼女は地に降りる。見詰められると、その神々しさに無条件に跪きたくなる。

 ここに居るのは人ではない。

 正しく女神だ――。

 私だけでないだろう、こう思ったのは。私はゴクリと咽を鳴らした。

 「ツェント・トラオクヴァール。」

 その女神から鈴が鳴る様な声がした。

 「私は、英知の女神、メスティオノーラ。」

 美しい声に耳を立てずにはいられない。

 「今、人の身を借りて、この地に降臨しました。」

 それは私だけではないのだろう。静寂が場を支配している。