小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

『幸せの連鎖』(掌編集~今月のイラスト~)

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 高校生になるとボーイフレンドも出来た、クラスメートの中にはボーイフレンドと肉体関係まで持ってしまう者もいたが、友香子は慎重にそれを避けてキスも許してあげられなかった、彼には申し訳なく感じたが、養父母に心配をかけるわけには行かないから。
 
 そして、そこそこの大学に行ける学力はあり、養父母もそれを勧めてくれたのだが、友香子は福祉関係の専門学校を選んだ。
『少しでも早く社会福祉士になって、困っている人の力になりたいから』と言って。
 
 お互いに相手を思いやって自分を少し抑える……それは傍目には理想的な家族に見えるが、それはある意味衝突を避けようとするネガティブな態度でもある。
 紀生、幸子と友香子は九年間を共に過ごしてなお、まだ本当の親子にはなり得ていなかったのだ。
 
▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 専門学校を卒業し、福祉の現場で働くようになって三年が経った頃、友香子は養父母の前で正座した。
「会って欲しい人がいるの……」

 なんとも落ち着かない気持でその日を迎えた紀生と幸子だったが、友香子に紹介された青年を見て、思わず固まってしまった。
 彼は車椅子に乗っていたのだ。

 彼は障害があるからと言って社会に庇護されているわけではなかった、市役所の職員として、健常者に混じって普通に働いている。
 社会の一線で働いている障害者として意見や経験を福祉事務所に提供する、そんな係わり合いから深く知り合うようになったのだと言う。
 紀生も幸子も障害者への理解はある方のつもりだった。
 しかし、現実に娘の交際相手だとすると、無条件で受け入れる事は出来なかったのだ。

「障害を逃げの理由にしないで頑張っているのは立派だと思う……だけど、友香子、彼はお前を幸せにできるのかな……」
 彼が帰った後、紀生は友香子を座らせてそう意見した。
 友香子の将来を心配するが故の苦言だった、しかし、紀生の言葉に友香子は激しく反発した。
 養子に入って九年間、押さえ続けて来たものが一度にあふれ出したのだ。
「彼は立派に働いてる、確かに足は不自由だけど体は他にどこも悪くないわ、ハンディを理由にしない姿勢は尊敬できるものよ、お父さんはもっと理解のある人だと思ってた!」
 友香子はそのまま家を飛び出して行ってしまった。
 紀夫と幸子は眠れない夜を過ごしたが、友香子は朝になっても帰らず、帰って来たのは翌日の仕事を終えてからのことだった。
 そして、それっきり友香子は口を利いてくれなくなった。

 そんな日々が一週間も続くと紀生は耐え切れなくなり、半休を取って彼の仕事ぶりをそっと見に行った。
 友香子の言うとおり、彼はハンディを抱えている事を理由に特別扱いなどされていなかったし、それを望んでいないことも見て取れた。
 窓口での対応もてきぱきと明快、同僚とも明るく談笑し、後輩の面倒見も細やかな様子……。
 紀生はそれを見届けると、そのままそっと役所を出た。


「友香子、今日、役所に行ってこっそり彼の仕事ぶりを見てきたよ」
 その日、仕事から帰った友香子、いつものようにぷいっと部屋に籠ろうとする背中に紀夫は言葉を掛けた。
「え……?」
 しばらく振りに効く友香子の声だった。
「俺が間違ってたよ、彼は立派な男のようだ、色眼鏡で見てしまって悪かった……」
「お父さん……」
「お前の為を思ったつもりだったが、お前の気持がわかってなかったな……お前は人の気持ちを思いやれる娘だ、お前を信じきっていればあんな事は言わなかった筈だ、すまなかったな」
「あたしの方こそ……あたしの為を思ってくれてることはわかってたのに、どうしても納得いかなくて辛く当ってごめんなさい」
「ははは、お互いにもうちょっと言いたいように言っていれば良かったかも知れないな、これからはたまには喧嘩もしような」
「……うん……」
 友香子は少し涙ぐんで、しかし笑顔を見せてくれた。
 心からの笑顔を……。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 それから一年あまり、友香子は三ヵ月後に挙式を控えている、相手はもちろん車椅子の君だ。
 そして姓が変わる前に、と三人での旅行に誘ってくれたのだ。

「さあ……もうそろそろ行かないと列車に間に合わなくなるぞ」
「うん……今度は旦那さんとも一緒にね」
「ああ、いいね」
「でも、もっと一緒に旅行したい人がいるのよね」
 幸子が悪戯っぽく言った。
「え? 誰?」
「まだこの世に生を受けてないけどね……孫よ」
「お母さん、気が早いわよ……」
 友香子がそう言って笑った。
「母さんはこう言ってるけどな、何も焦る事はないんだぞ」
 そう言ってくれる父の気持は良くわかるし、ありがたい気持で一杯になる。
「うん、わかってる、授かりものだしね」
 友香子はそう言って笑ったが、父が、母が孫を抱く姿を思い浮かべていた。
 きっとそれは幸せな光景になるのだろう。
 両親にとっても、自分にとっても、夫となる人にとっても、そして、とりわけまだ見ぬわが子にとっても……。
 幸せの連鎖……一度は途切れてしまったかのように見えたその鎖だが、紀夫と幸子、そして友香子は自分たちでそれを再び繋ぐことができた。
 そして、三人は三人それぞれ心の中でその連鎖がこの先もずっと続いて行くように願わずにはいられなかった……。
 
 

(終)