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逆行物語 第六部~ユストクス~

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氾濫の治水



 その上で今まで申さなかった派閥を口にし、シャルロッテ様やメルヒオール様に、これからの仕事を引き継ぐ予定であると申された。
 フロレンツィア派はライゼガング派から派生しており、そこに中立の貴族を迎え入れた。その為、フロレンツィア派の領主候補生はシャルロッテ様やメルヒオール様になる事には違いなく、ギーベ・ライゼガングは驚いた様で、今にも高みに昇りそうなライゼガング伯爵がいる前で、本当にそれで良いのか、と確認したが、ヴィルフリート様は頷かれた。

 後、隠し部屋で私はヴィルフリート様にそれで良いのか、と確認すると悪どい顔で笑われた。
「ライゼガング派の貴族は私が何をしようと気に食わない。だから自尊心を満たしてやれば、私を見下しながら、上部だけ取り繕うだろう。それで良い。
 派閥融和は簡単には行かぬ。利が与えられるなら、それで良いと思えるのはヴェローニカ派が元になっているアウブ派だけだ。辛酸を舐めさせられた世代はもう居ないからな。
 だがライゼガングは辛酸を舐めさせられた世代が力を持っている。直接な被害を食らっていない世代は、親からの摺り込みだけだから、割り切れるだろう。何より叔父上が仇敵を引っ張っている以上、融和に賛成され易い。そしてローゼマインは今まで隠されていた為に、身分は婚約者である叔父上の代理だ。
 だが私は違う。私はライゼガングの中ではヴェローニカ派なのだ。アウブ派では無い。ならば最低限のお膳立てだけしてシャルロッテ達に引き継がせた方が賢い。
 第一、完全な融和等、理想過ぎる。口で言う程、簡単ではないし、成功してもそれは新しい派閥が出来るだけだ。またそれを行える人間が居て、そこに計算高い信者が加われば、理想主義なだけに洒落にならない暴走が起こり易い。
 それはもう政治の為の派閥ではなく、その人間を神にした新たな神教の派閥だ。中央神殿がエーレンフェストを根城にすると思えば、厄介さも想像付くであろう? 
 ――ある程度の住み分けは必要だ。此方はシャルロッテ達を操れば良い。失敗しても切り捨てれば良い事だ。ライゼガングに頼るべきものはないのだからな。」
 取り繕う必要が無い意見だからか、はっきりと仰られた。私は気付いた。ヴィルフリート様の手を取らなかった最初の時点で、ライゼガング古老を見捨てたのだと。
「…時代の流れについていけない事は罪ではない。寧ろ安定を犠牲にする発展を過信する事が間違いだ。安定の体力を使い潰した発展は、領地を潰す悪だ。
 だが、その道を突き進むしかないのなら、要所は押さえ、崩壊を先送りにするしかない。
 危険な選択ばかりをして身勝手だが、それでも後の事は後の者に任せるしかない。」
 私は気付いた。フェルディナンド様のお言葉があった故に。

 ヴィルフリート様は、神々が許さぬからしないだけで、本心ではローゼマイン様を切り捨てたいのだと。フェルディナンド様とは上部で手を組んでいるだけで、本心では疎んでいるのだと。
 …成る程、完璧な取り繕われているのか。フェルディナンド様の仰り様では決して見抜いた訳ではなく、ヴィルフリート様の何らかの情報を掴んでいるが故に“知っている”。

 鍵は、夢の世界。

 ヴィルフリート様とローゼマイン様が共有している夢。

 ヴィルフリート様とフェルディナンド様が共有している夢。

 ヴィルフリート様とフェルディナンド様とローゼマイン様が共有している夢。

 恐らくは三種の夢の世界がある。全てを掴んでいるのはヴィルフリート様だ。

 …面白い。確かに私は、ヴィルフリート様の隣に立ちたいと少しずつだが、想いが強くなっていった。

 迎えた御披露目。洗礼式も見事な祝福だったが、フェシュピールを演奏しながらの祝福は皆の注目を引いた。そんなローゼマイン様の後、ヴィルフリート様はローゼマイン様以上の技巧曲を作曲し、歌われ、その腕に注目が集まった。