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逆行物語 真四部~下手の考え休むに似たり~

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麗乃=マイン~バグる~



 気が付いたら、私は平民の実家に来ていた。そこでは何の変化もなく、日常が流れている――、何て事はない。
 父さん、母さん、トゥーリは“マイン”をずっと探している。病弱な娘が居なくなって、何があったんだって、頭を抱えながら、それでも仕事に行き、生活している。
 ルッツやルッツの家族はその騒ぎを切っ掛けに、家族の絆に気付き、旅商人の話を聞いて、ちゃんと話し合った。結果、ルッツはキッパリと商人を諦め、職人になる事を決めた。
 そんな風に前を向いているルッツから、天啓を受けた様に、“マインはきっと神様に愛されて、その手招きについていって、今はきっと幸せなんだ、そう信じよう”と言って、“マイン”を諦めた。
 次から次へと変わる周囲から、目を剃らしたくて、私はフラフラとまた、何処かへ移動した。
 次に気が付いたら、私は神殿長室にいた。ベーゼヴァンスはいなかった。ベーゼヴァンスがフェルディナンドの出奔に合わせたかの様に亡くなっていた、いや、殺されていた。…多分、フェルディナンドだろう。
 ユストクス達からは何も感じなかったから、フェルディナンドが自分でやったんだって思う。
 私が読み取れない感情の主はフェルディナンドと“マイン”だけ。だから彼等はカーオサイファ様関連だと思う。

 …私、どうすれば良いんだろう…。
 
 その場で蹲って、また時間が少し経って。軽く頭に触れられる様な感覚に、頭を上げた。
「暫く隠し部屋で籠る。何かあれば声を掛けよ。」
 灰色神官の背中が視界に入る。彼等に命じていたのはヴィルフリート兄様で、その目は確かに私を捉えていた。

 兄様の後を追って、隠し部屋に入る。多分、私と話をするつもりだろうと思ったから。言動、行動、視線、で伝えて来たと解ったから。
「初対面の挨拶は省いて、早速本題に入るぞ、麗乃。」
 私が部屋に入ると、盗聴防止の結界が作動している。灰色に声掛けを命じているから、突発的に兄様が私に話す言葉を聞かれる恐れを考えたんだろう。
「今回は“マイン”と叔父上がバグっているから、賭けは破綻している。どの様な状況だろうと、賭けの対象外だと、カーオサイファ様は仰せだ。」
 力が抜けた。
「麗乃、気を遠くするな。話は終わっていない。」
 兄様の声が遠い。

 ………………………………。

 はっ!
「正気に戻ったか。」
 兄様の声が近くに戻った。意識を遠くしていたみたい。ホッとしたから…。
【はい、申し訳ありません、兄様。】
「では話を続けるぞ。」
 頷く様に首を振り、言葉を紡ぐ兄様に、私はさっきの言葉の違和感に気付く。
【兄様、その前に“バグる”って言葉、何処から?】
「“知識”からだ。」
 …知識がフェルネスティーネから移った? 
「その事を含めて話して置きたい。フェルネスティーネ様は敢えて其方に教えていなかった事柄がある。」
 私の疑問に気付いたのか、兄様が言った。