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逆行物語 裏三部~フェルディナンド~

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モトスウラノとローゼマイン



 「何にせよ、モトスウラノの記憶を持つローゼマインにとって、自分を成人女性の積もりでしょうし、貴方もその積もりで接した。だから、貴方に責任はあっても間違いは無い。
 自身の常識がユルゲンシュミットとは全く違うと言うのも、マインが同年代と比べて、家の手伝いさえ録に知らない世間知らず、と言うのも神殿の件で解っていた筈。
 貴族になれば、求められる事がまた変わる、学ばなければならない事が多いのも、ハッセの件で自覚した筈。
 なのに貴族の常識を身に付けるよりも、自分のやりたい事を優先した。効率良く物事を進める為、慣習を無視した遣り方は、その時は良くとも、何れ障害を産み出す。その障害に剣を向けられるのは貴方で、盾を構えられるのはジルヴェスターで、そして彼女は何も出来ない。詰まり責任を取る能力がない。
 一方、貴方は彼女を責任が持てる大人であると認識していた。齟齬があった。けれど領主一族とした為に、最終責任を負うのはジルヴェスターとなり、それを導いた貴方もまた、彼女を活かす事で、エーレンフェストを発展させる義務を負った。だから齟齬が隠された。
 モトスウラノが成人女性と聞いていた貴方が、ローゼマインを子供と認識するのは難しいでしょう。だから貴族の常識が足りなくても、必要と認識するなら、自分で学ぼうとする、読書好きだし、日本の環境で学びなれているから、心配も無い、貴方が学ばせたい事だけ遣らせれば良い、そう判断しても間違いは無いわ。
 自分が子供だと、それも特に優秀でも無い、一般的な12、3才程度の子供だと進言しないローゼマインの責任、大人の積もりの彼女の責任よ。
 ただ、貴方には後見人としての義務があり、責任がある。貴方が教えたい事を教える権利はその上に成り立つ物。
 講義をせず、生徒に講義内容を書いた木札だけを渡して終わりなんて、ヒルシュールでもしないでしょ。
 ローゼマインは私の皮肉に、今でも全く気付いていないけど、王族に喧嘩を売るバカをやらかしたのは、一体、誰の教育成果?  
 魔術具を使わなければ動けないなら、何故、入学を急がせたの? 特別措置を取る積もりだったのでしょう? 取らないなら其れに越した事は無いと判断したのは貴方でしょう。それでも、それを許したジルヴェスターに責任は掛かる筈だと分かるでしょう。」
 私はこの話し合いの真意に漸く気が付いた。何故、モトスウラノの事を知っているのか、無視は出来ないのかも知れないが、今、問題にすべきでは無いのだ。
 先程から時折ジルヴェスターが責任が掛かると言っているが、それはつまり、ツェントの配偶者とならない場合で、実際にはこれからは私に関わると言っているのだ。
 私が、ジルヴェスターのしていた、代理には決して出来ないアウブの役割を果たすと言う事だ。
 私は無能は居ない方が良いと思っているが、私の基準について来れない者が多いのは知っている。一貴族なら切り捨てろ、で済むが、全体を見るアウブならば、そうは行かない。
 更に私やユストクス達だけで全て回る訳ではない。人海戦術が必須なのだ。今まで派閥を最低限しか気にしなかった(ジルヴェスター基準ならばほぼ無視に近い)し、それで問題無かったが、これからはそうは行かぬ。
 解っていた積もりだったが、ローゼマインに対して、今までと同じ対応では、足を引っ張られる可能性が、近い将来出てくるだろう。
 私はローゼマインが良い意味で特別だと思っていた。優れた結果を出せるから、頭痛がする事があっても、それを補い、余りあると思っていた。

 だがそれは違う。

 長期的に見れば、遥かに頭痛要因が多く、それに対応するのはローゼマインではない。
 ツェントの言葉から考えるなら、ローゼマインはニホン基準では普通の人間以下の能力者であり、此方で優れているのは、彼女自身ではなく、ニホンの文明なのだ。
 想像が付かない程、文化の違う国からそのまま優れたモノを持ってきた処で、定着は難しい。此方に合う形にせねばならないのだ。