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逆行物語 裏四部~ヴェローニカ~

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カーオサイファの遺言



 「アウブ誘拐に協力している訳では無いと思う。例えばだが…、叔父上がエーレンフェストを出たいと申せば、何処が力を貸すと思う?」
「何処が…、」
「叔父上と親しかった人間がいるのは何処の領地だ?」
「…ダンケルフェルガーか、ドレヴァンヒェル…、ですかな。」
 考え混みながら、口にするカルステッドにヴィルフリートが先を促します。
「叔父上は領主候補生だ。領地を出るなら、一番簡単な方法は婚姻だ。アウブの許可があった様に見せ掛けるにしても、秘密裏に近い遣り方で領地を出るなら、協力する可能性がより高いのはダンケルフェルガーだと思う。あそこは叔父上に罪悪感を持っているし、地理的にもドレヴァンヒェルより簡単に入れる。
 それにダンケルフェルガーの男性陣はあまり深く考えないと聞く。短期間なら、父上の事を誤魔化すのはそう難しくないのでは? 
 女性陣が気付いた時にはエーレンフェストに隠す方向で進むしかなくなっても可笑しくないと思うが。」
 カルステッドは顎に手をやり、撫でながら頷きます。その瞳にはフェルディナンドを犯人として、考える事に迷いは無い様です。
「確かに。しかし難しいですな。現状は確かにダンケルフェルガーが最も……、ですが証拠がありません。現段階ではエーレンフェストの恥を晒すのは……。」
「私もそう思う。第一に証拠があったとしても、ダンケルフェルガーに突き付ける策が無い。緊急通信具は父上が居なければ使えない。」
「八方塞がり、ですな…。」
「諦めるしかないのですか?」
 ハッとしました。フロレンツィアの声です。私と違って、ヴィルフリートと普段関わらぬ為、違いには気付き難いのでしょう。立ち直りは私より早い様です。
「フロレンツィア様、それは、」
「行方不明を普通の通信手段で各領地に発表し、叔父上を指名手配すれば、そもそも叔父上が父上に何を仕出かすか解りません。
 叔父上に知られぬ様に発表する事、他領を必ず味方にし、叔父上を捕らえさせる事、エーレンフェストから礼を出す事、どれも現段階では不可能です。
 叔父上には同情する領地も多いでしょうし、それが大領地なら尚更です。上手く行ったとしても、今度は必要経費でエーレンフェストがガタガタになります。
 アウブとして取り戻す事は不可能、もっと別方向から策を立てるべきかと。」
「別方向?」
「はい、表向きは病と偽って、暫くはアウブ代理を立てましょう。叔父上と親しかった領地の情報を集めると同時に、先代アウブと同じ病だと中小領地には流しておいて、上位の後ろ楯が欲しいと言っておくのです。
 そうすればエーレンフェストが上位の情報を集めていても、可笑しくはないでしょう。そして嘘の死亡届を出しましょう。そうする事でエーレンフェストは父上を諦めた、と叔父上に思わせる事が出来ます。
 そして同時に父上の死に何か様子が違う領地が無いか、探ります。当てが付けば、何とかして縁を持ち、何れ婿入りや嫁入りを打診出来る様になるまで、親しくなっておくのです。

 ――つまり、領地に入り込んで、父上を取り戻します。」

 …反対意見が無かった訳ではありません。領内の派閥調整の事もありますし、本当の意味で信用出来、能力がある者を協力者に選ばねばなりません。
 ただ反抗しない標に名捧げを強要してきた者等、使えません。
 しかしヴィルフリートは私の知っているヴィルフリートではありません。論理的な説明だけでなく、様々な不利益を自分が被る、と言い切った事、元より打てる手が他に無い事もあり、10年以上の歳月を懸けた策が始まったのです。

 …私は、途中で舞台を降りましたが。

 ヴィルフリート、貴方の別人の様な変化は、私にとって――――。

続く