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逆行物語 裏四部~ヴェローニカ~

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カーオサイファの雛



 ジルヴェスターを長く補佐出来る領主候補生が必要でした。しかし既にコンスタンツェは領地を出す事に決めていましたし、当時のエーレンフェストでは、フレーベルタークに婚約破棄を申す事は出来ませんでした。
 しかし年齢的にも産む事は難しいかと思いました。と、なればやはりアウブに第二夫人を娶って貰うべきかも知れません。
 ……そろそろ受け入れていかなければならないのでしょう。
 その様に考えていた処でしたが、下町に流行り病が広まり、その処理に手間取っている間に、貴族の中でも猛威を持ち始め、収束に時が掛かりました。漸く落ち着いたと一息を吐いた頃でございました。

 フェルディナンドが現れたのは。

 あの時の失望、私は一生引き摺って行くのでしょうね…。
「この子はフェルディナンド。城外で産ませた私の息子だ。この子の洗礼式を母親として執り仕切って欲しい。エーレンフェストの為、ジルヴェスターの為、…悋気を抑えて欲しい。」
「御断り致します。」
 私は気が付けばそう答えておりました。貴方、今、何を仰いました? ご自身は理解されていますか? そんな問いが頭を巡りますが、実際に口に出す事はありませんでした。女の直感が働いたのでしょうか。
 …貴方は何も理解していなかったのですね。体裁を整える為、アーレンスバッハへの言い訳の為、私は婚姻したのではありません。何故、エーレンフェストに協力しなければならないのですか。何故、復讐を捨てなければならないのですか。
 貴方が私を大切にして下さると思ったから、星を結んだのです。貴方の執政を助けて来たのです。復讐を止めたのです。貴方の裏切り…、絶対に許せません。
 私が培って来た、アウブ第一夫人としての様々な心構えがボロボロに崩れて行きました。
 その日より、私は復讐の権化になりました。エーレンフェストのカーオサイファと呼ばれる存在になるのです。

 ライゼガングは元より、フェルディナンドに対する憎しみも、夫に対する怒りも止める事はしませんでした。
 必要であれば、暗殺も厭いませんでしたし、フェルディナンドに毒を盛る事も多くありました。一応、領主一族ですし、フェルディナンドが居なくなれば、また勝手に何かするでしょうから、生かさず殺さず、を指示しておりました。ブラウもその1つです。
 ですが、セラフィーナが加減を間違えてしまいました。なので私は彼女を切り捨てました。
 …私は、アウブに謝って欲しかったのです。私が放棄した役割を、その大事さを理解して頂ければ、それで良かったのです。しかしそれは永遠に期待出来ないと解ってしまいました。

 あの人が、マントを蔑ろにした時に。

 私がそれに気付いたのは、確かにフェルディナンドへの嫌がらせの一貫でした。あの子に届く、あの子のマントに対して、邪魔してやろうと考えたのです。しかし…、そのマントに対する情報が入りません。時期的に貴族院入学に間に合うには、かなり厳しくなっているのに、です。余程、秘密裏にしているのかと勘繰って、調べを平民側にまで広げた処、そもそもマントの用意を忘れている事に気付きました。
 マントを用意するのは確かにアウブですが、その為に各貴族(主に母親が急かされる父親)から申し入れがございます。その総数にフェルディナンドの分が抜けているのです。当然ですが、私もセラフィーナも何もしませんから、アウブが申し入れ総数に自分で数を足さねばならないのですが。

 ……………………。