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逆行物語 第五部~交差~

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フィリーネ~領主夫人~



 私達が4年生になった頃、ランツェナーヴェから侵略が起こりました。手引きしたのはアーレンスバッハ(アウブは薬物で操られており、主犯はゲオルギーネ様でした)と中央騎士団の一部です。侵略者の名をジェルヴァージオと言いました。
 ランツェナーヴェから軍勢を率いて、ユルゲンシュミットを占領してしまったのです。王族を牢へ繋ぎ、自らがツェントだと、グルトリスハイトを掲げたそうです。
 しかしエーレンフェストにとって、尤も驚いたのはジェルヴァージオの容姿、はっきりと申し上げれば、顔でございました。
 そっくりなのでございます。フェルディナンド様に。まるでフェルディナンド様がお年を召したかの様な…。
 …お2人の関係もフェルディナンド様とランツェナーヴェとの関連も分かりませんでした。
 確かな事は、フェルディナンド様はジェルヴァージオから命令を出された事、アーレンスバッハへ婿入りした事、ディートリンデの配偶者として、婚約期間からアーレンスバッハに移動した事………、そして2度とエーレンフェストの土を踏む事が無かった事でございます。

 ゲオルギーネはアーレンスバッハを掌握するだけでは飽き足らず、嘗てのアイゼンライヒを蘇らせ、その領主に治まる野心を持っていました。
 フェルディナンド様はその企みを文字通り命懸けで潰したのです。
 ジェルヴァージオは、いえ、ツェントはその時になり、初めてエーレンフェストがツェントの身内であると発言されました。
 詳細はジルヴェスター様しか存じません。ジルヴェスター様はお聞きになった事を誰かにお話になる時間がございませんでした。
 護衛さえ排し、2人だけでお話をされていた処、アーレンスバッハの残党が襲って来たのです。
 アーレンスバッハは確かにツェントの味方でございました。しかし幾ら労を報いると言っても、アーレンスバッハに他領を侵略する権利を与える訳には行きません。
 だからこそ、アーレンスバッハを切り捨て、逆に何時敵に回っても可笑しくなかった他の大領地に利を配り出したのです。貴族院以外の領地を切り、大領地に与えました。中央の貴族になっていたランツェナーヴェの者は然程多くは無かったから出来た事だそうですが。
 そして元・王族も牢から出され、アーレンスバッハを統治させます。当然、境界線は引き直されました。
 その事に不満を爆発させた、アーレンスバッハの残党。先の功績から連座を免れていたのに、感謝も無かった様です。
 ツェントも傷だらけになりながらも応戦したそうです。ジルヴェスター様とは襲撃の際、離れ離れになってしまったそうで、行方が解らなくなりました。
 ツェントは自らの責任だと言われ、身内であるエーレンフェストにだけ、伝える事があると言われ、グルトリスハイトの取得方法について、話されたのです。
 そしてヴィルフリート様に資格があると仰せられ、グルトリスハイトを獲得させたのです。
 過去の失態は最早消え失せました。それでも許さぬと喚くライゼガングは切り捨てられ、ボニファティウス様の先導の元、ヴィルフリート様が8代目アウブ・エーレンフェストとなる事が決まったのでございます。
 私やグレーティアは側仕え古参として、新たな側近に引き継ぎを行い、暫くは共に仕事をしましたが、ヴィルフリート様が第一夫人のハンネローレ様を娶られた後、グレーティアは第二夫人、私は第三夫人として、ヴィルフリート様の妻になりました。

 そしてヴィルフリート様は必ず、領主候補生に神殿長を勤めさせる義務を追わせ、グルトリスハイト取得を目指させる事にしました。
 ツェントは王族の祖先と同じく、グルトリスハイト取得を一族に限定しました。しかし、それにより、劣化する事を防ぐ為、エーレンフェストのアウブにはグルトリスハイトを会得させる契約魔術を施行しました。
 また貴族院の講義にも変更を加え、間違えてグルトリスハイトを会得する者が居ない様、それでいて、魔力や属性数、加護が少しでも増える様に絶妙な調整をされたそうです。
 それらを全て知るアウブ・エーレンフェストは王族の影と呼ばれる様になっていくのです。

続く