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逆行物語 第五部~フェルディナンド~

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ドレッファングーアの箚さくれた糸紡ぎ(2)



 マグダレーナ様との婚約はならなかった。ハイスヒッツェ達が私の為に、エーレンフェストを出る婚姻を進めて来たが、何故か乗り気にはなれなかった。喜んでくれたユストクス達には申し訳無いが、それが真実だった。
 だがエーレンフェストに利がある話であるし、物凄く驚かせられたが、ヴェローニカが前祝いと称して、私に正真正銘、母親として普通の贈り物を持って来る程だったので、流されていた。正直、ヴェローニカの笑顔を見て、美しい女性だと思えたのは後にも先にもこの時だけだ。
 …この気持ちにダンケルフェルガーの女らしく、マグダレーナは気付いたのだろう。私との婚姻を嫌がり、ダンケルフェルガーに多大な利を齎す婚姻を取り付けてきた。長く続いた政争が終わった瞬間でもあった。
 ジルヴェスターは非常に残念がり、私を慰めようとしていた。ヴェローニカはこの世の終わりの様な顔をしていた。私がエーレンフェストに残る事がそれほど嫌か。解ってはいたが。
 ……父上はどんな顔をしていただろうか。何故か思い出せない。
 
 卒業式。婚約が決まっていない私はエスコート相手がいなかった。仕方無くリヒャルダに頼んだ。グールドーンが宜しければ私が、と言うのは黙殺した。
 卒業した私に、父上は祝いだと髪留めを贈って下さった。
「私とお揃いだぞ! 其方にも似合うではないか。」
「はは、そうだな。ジルヴェスターの見立て通りだ。こう言う事は勝手にさせておいても良い結果を産む様だ。デザインは私だが。」
「私にデザイン力が無いと?」
 父上とジルヴェスターのやり取りは耳に入るが、余り頭には残っていない。それよりも与えられたマントと同じ様に、この髪留めがとても嬉しかった。

 ヴェローニカは私の大事な物を奪う。父上が高みに昇り、私への嫌がらせは命の危機を感じる程になった。私を守る為に、ジルヴェスターは神殿に行けと命を出した。その際、ヴェローニカにマントと髪留めを奪われた。心に寒々とした雪が降った。
 私に遺された父上の形見はフェルディナンドと言う名前と…、屋敷だ。屋敷は病の身を押して、父上がヴェローニカに手を出せない様にしていたと、ジルヴェスターに教えられた。此処だけが、ヴェローニカに害されない、私の聖域だ。