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逆行物語 第三部~ラオブルート~

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神命と王命(3)



 「エアヴェルミーン様は政争を繰返し、正しき道を失った王族を認めてはおらぬ。故に王配は王族以外から選ばねばならぬ。
 更に先だっての政争が長引いた原因には、周囲の領地の判断にもあるとされた故、中立を保ち、政争から距離を置いたエーレンフェストより選ぶべし、とのご意見だ。ただエアヴェルミーン様が認識出来、尚且つ性別が男性であるのは、アウブ・エーレンフェストである其方と、護衛騎士であるカルステッド、それから神官長であるフェルディナンドの3名のみ。その中での選択ならば、其方しかおらぬ。」
「それは…、一体…、」
 確かに、これだけならフェルディナンドを還俗させれば良いと言う話になる。フェルディナンドが、クインタでなければ。
「カルステッドは身分の差がある。今から領主候補生にする等、不可能。外しか無い。
 フェルディナンドは、エアヴェルミーン様との魔力の相性が悪いらしく、嫌われている。どうしようも無い理由なので撰ぶな、とは言われなかったが…、そう言う理由だ。消去法で残るのは其方だけだ。」
「そこまで神に合わせるのですか?」
「フェルディナンド様、失礼でありましょう。」
 私はそこで前に出た。アダルジーザの事を隠したいのは我々だけでは無い。ランツェナーヴェの血筋を持つ者同士で結ばれるには、感情的な問題が在りすぎる。
 単体では気付かれなくとも、並べば解る人間には解る。瞳や髪の色だけではない。顔の造詣まで似ているのだから。
 中途半端に事情を知れば、兄妹では無いかと嘯く者も出よう。隠した事が無意味になる。
「ユルゲンシュミットは神の慈悲に縋って生きていくのです。特にここに暫くは他国へ譲渡する余裕も無い程になのですよ。
 エーレンフェストでは存じ上げないでしょうが、ランツェナーヴェとの取引で上質な魔石が含まれる事はもう無かったのです。故に侵略をも考えられたのでしょうが…。
 現状、ユルゲンシュミットを守るに当たって、神の意向に人の意向が背く猶予は無いのです。」
 クインタであるフェルディナンドには、上質な魔石がアダルジーザの事だと伝わるだろう。ランツェナーヴェの血を入れられない事、更にエアヴェルミーン様より嫌われているのも事実だとも。…貴族院の不思議を探っていた時、本人が気付かぬ内に不興を買ったらしいのだが、それは追及するなと命を受けている。
「…私としても、神殿の復興の為にも、エーレンフェストと縁を繋いでおきたい。関係を深めたいのだ。」
 意味を解したフェルディナンド様が口を閉じた瞬間、フェルネスティーネ様が続ける。…エーレンフェストを批判する材料は少ない方が良い。
「王命を続ける。フェルディナンド、たった今より其方がアウブ・エーレンフェストだ。中継ぎとして全力を尽くせ。そして、次期アウブをローゼマインに。ジルヴェスターの血を残す為、長子、ヴィルフリートを配偶者とせよ。権力移項が速やかに行われる様、フロレンツィアは其方が娶り直せ。」
 そうして、フェルネスティーネ様はジルヴェスター様をエーレンフェストには返さぬとされた。
「ジルヴェスター。」
「!!」
 それも言葉ではなく、口付けで示された。
 跪き直していた故に直立姿勢のフェルネスティーネ様とは顔の位置が近い為にお出来になられた事。
 そのままエアヴェルミーン様より御借りしていた神力を注ぐ。これでジルヴェスター様の魔力は底上げされる。…少々複雑だった。

続く