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逆行物語 第三部~ラオブルート~

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神命と王命(1)



 今宵、フェルネスティーネ様が即位される。神の意思と共に、グルトリスハイトを手にされたこの日の夜に。
 各領地のアウブと重鎮達が集まる。私はアウブの中で一際若いジルヴェスター・エーレンフェストを見付ける。
 集めた情報において、第一夫人しか娶っておらず、その夫人に骨抜きだと聞いた。果たしてフェルネスティーネ様をお支え出来るだろうか…。
 私は未だ囚われたままの心に想いを馳せる。妻を大事にしているか、と問われれば、首を傾げる。粗末にはしていないが、命ごと切り捨てる事も厭わないだろう。
 …全く嘆かわしい。もし、ジルヴェスター・エーレンフェストがその様な男であれば、決して許さぬ自らの狭量さに、内心で溜め息を吐いた。

 神々しさを身に纏い、堂々とした態度で魅せる。その存在に奇跡を感じない者は居ないだろう。
「この様な時間の急な勧告にも関わらず、お集まり頂き感謝します。私はフェルネスティーネ。今よりツェントになりました。」
 その手に握られるはシュタープ。既に形が出来ておられる。
「グルトリスハイト。」
 構えたシュタープが、大勢の前で形を変える。どよめく皆の前に、大きな魔方陣が現れる。
「ユルゲンシュミットの創世神・エアヴェルミーン様の御光臨でございます。」
 神々しい威厳に満ちた、壮年の男性が現れる。その強い瞳が周囲を見渡す。
「随分、脆弱になったのう、人の子よ。」
 重々しい声が響く。
「ここに来ているユルゲンシュミットを導く者達の数を聞いたが、私が認識出来ているのは、僅か数人だ。これでは正しき道に還るのも難しいのう…。」
 それだけ過去に比べて、魔力が弱いと言われ、集まった者達が拳を握る。
「…このユルゲンシュミットは滅亡の危機に瀕していた。その危機をここに立つフェルネスティーネが救った。これより先もユルゲンシュミットを支える礎を守る。
 しかし更にその先、フェルネスティーネの志を継ぐツェントが立たねばならない。早急に、正しきツェントを立つ様、其方達を導かねばならぬ。」
 声に重々しさが増した気がする。
「よって、ここに神命を出す。異論は認めぬ。

 1つ。神の宿り家を復興させよ。

 1つ。全ての争いの芽を、幼き内に摘み取るのだ。」

 再びの、神の威光溢れる時代に戻れ、との宣言をし、その場より消え去る。
 跪く姿勢を見渡し、フェルネスティーネ様が御言葉を紡ぐ。
「今まで、神が人に干渉される事は余りございませんでした。人の夢に現れる事も、自らの力で神の御言葉を聞ける者以外の前に姿を現せる事も、自らの考えを命として効かせる事もございませんでした。
 つまり、それほどに今、この世界が危機に瀕していたのです。そして…、人は今、神の信頼を失おうとしています。
 最後の機会を生かさねば、何の道、ユルゲンシュミットは滅亡への歩みを僅かに遅くしただけに過ぎなくなるでしょう。」
 その瞳に強い光が宿る。
「信頼を取り戻さなければ、神の愛と慈悲をも失い、白い砂となり、崩れるユルゲンシュミットと共に、私達は死ぬのです。高みに昇らずに。」
 その意味を分からぬ者はいない。救済の無い世界になると言う事。
「正しき次代への道を共に創る為、私は遠慮等致しませぬ。皆、従って貰います。」
 一際高い声が響く。

 「これより、王命を発表致します。」