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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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氷の中のアリス


 学校をサボった金髪の少女は自宅に帰って姉を呼んだ。
「姉貴!」
 部屋の奥から出てくる若い女性。顔立ちは少し幼さが残るが、どこか大人の色気を纏っている。着ているナイトドレスのせいかもしれない――当時16歳のセーフィエルだった。
 セーラー服を着た金髪の少女とセーフィエルの黒髪は似ても似つかない。その雰囲気もセーフィエルが落ち着いているのにたいして、金髪の少女からは血気が出ていた。
 金髪少女の蒼眼がセーフィエルの黒瞳を威嚇するように睨んだ。
「姉貴、金貸して」
「駄目よ」
「3万くらいでいいから」
「なにに使うの?」
「1万でいいから」
「なにに使うか言いなさい」
「もういい」
 背を向ける少女の腕をセーフィエルが掴んだ。
「待ちなさいアリス!」
「なぁーにー?」
 真摯な瞳でセーフィエルはアリスを見つめていた。
「学校を行きなさいとはもう言い飽きてしまったわ。けれど、危ないことはよしてね。あなたはたったひとりの妹なのだから」
「妹なんて馬鹿らしい。どーせ姉貴とアタシ血が繋がってないんだから!」
「なんてこと言うの!」
 セーフィエルの平手が上げられ、バシンとアリスの頬に紅潮をつくった。
「なんでアタシが叩かれなきゃいけないわけ!」
「血が繋がっていないなんて二度といわないで頂戴」
「本当のこと言ってなにがイケナイわけ?」
 二人の髪色はあまりにも違いすぎた。方や金髪、方や黒髪、それが二人の地毛だった。
そして、瞳の色も違う。
 光を全て吸い込むセーフィエルの闇色よりも濃い黒瞳。
 どこか光を帯びた神聖なまでに美しく蒼く深みのある蒼瞳。
 姉妹としては、似ても似つかない存在だった。
 死んだ両親も黒髪、黒瞳だった。だから、常々アリスは自分はこの家の子供じゃないと幼い頃から思っていたのだ。
「アタシの本当のパパとママはどこにいるんだろ」
「何度言わせたら気が済むの。今は亡きお父様もお母様も……わたくしも、あなたと本当に血が繋がっているのよ」
 アリスが怒りを滲ませながら反発する。
「……騙されない。あの話からして胡散臭い。あの人はアタシを妊娠中に魔導被爆したから、アタシみたいな子が生まれたって」
「そうよ、それが原因でお母様はあなたを生んですぐに亡くなったのよ」
「その話がホントだとしても、アタシはどっちにしたって出来損ないジャン」
「あなたは生まれながらにしてわたくしよりも魔導の才能があったわ。そのまま魔導の鍛錬を積めば、一族最高の魔導士になったのに……」
「そんなの100億詰まれたってなりたくない!」
 魔導実験によって魔導被爆したアリスの母は、当時アリスを身ごもっていたために、それが胎児に大きな影響を及ぼしてしまった。生まれたアリスは体内に大量の魔導力を秘め、魔導と同化している身体は魔導を全てすんなりと受け入れる体質になっていた。アリスの瞳の蒼は魔導の蒼なのだ。
 セーフィエルは悲しそうにアリスを見つめていた。
「どうして信じてくれないの?」
「そんな顔でアタシのこと見ないで……だって嘘は嘘だから信じられない」
「だったらDNA検査をすればわかることだわ」
「偽造するつもりでしょ、信じないんだから」
 本当は怖かったのだ。
 本当に血が繋がっていないことを証明されてしまうのが怖かった。目の前のいるのが本当の姉でないことがわかるのが怖かった。そしたら本当に独りになってしまう。
 アリスはセーフィエルに背を向けた。
「金貸してくれないならいーよ!」
 アリスは走って玄関を飛び出して言ってしまった。
 こうしていつも物別れになってしまう。
 物心つく前のアリスを思い出し、セーフィエルはとても悲しくなる。
 ――あんなに無邪気で笑顔の可愛い子供だったのに。
 窃盗、殴り合いの喧嘩、酒、煙草、ドラッグ。
 アリスの悪い噂や、警察署にアリスを向かいに行くたびに、セーフィエルの心は闇に蝕まれた。
 今のアリスに怒りを覚えることはない。
 ただ悲しさが雪のように積もるだけだった。
 どこまでも退廃していく妹を見ていられなかった。
 しかし、アリスはいつも逃げてしまうのだ。
 もっとアリスにきつく接することもできたが、セーフィエルはアリスに嫌われたくなかった。もう十分嫌われているが、どこか遠い場所に姿を隠してしまうのが怖かった。
 セーフィエルにはアリスしかいなかったのだ。

 家を飛び出したアリスはケータイでオトコ友達を呼び出した。
 すぐにやってきた友達はバイクを乗ってアリスの前に姿を見せた。アリスと同い年の13歳で無免許だ。
 バイクの後ろに跨ったアリスは指で前を差し命令する。
「どっか遊びに連れてって」
「ゲーセン行こうと思ってたんだよ」
「じゃ、ゲーセンにしゅっぱ〜つ!」
 走り出したバイクは風を切り、すぐに道路の制限速度を越えた。道路標識なんて知らないガキが乗っているのだ。速度表示の標識など、記号としか見ていない。
 グングンとスピード上げ、2人を乗せたバイクは次々と車を抜かしていく。前を走る車を抜くことがゲーム感覚なのだ。
 だが、そんなゲームもすぐに飽きる。
 最初に飽きたのはアリスだ。
「ゲーセンまだぁ?」
「ほら、すぐそこだよ」
 バイクは急ブレーキをかけて停車した。思わずアリスは前に乗っている友達に力いっぱい抱きついてしまった。
「もぉ、後ろにアタシ乗ってんだから気ィつけてよ」
「俺はおまえの胸の感触感じて得したけどなー」
「もしかしてわざとやったの?」
「知らねぇーよ」
「ユースケのヘンタイ!」
 笑いながら二人はバイクを降りると、さっそく目の前のゲーセンに入った。
 店内を見回してアリスは客を見た。
 クレーンゲームで遊んでる若者、歩きながらしゃべっているカップル、背広を着たオジサンもいる。
 アリスはクレーンゲームに熱中している若者に目を付けた。
 理由はアリスの財布が知っている。
 アリスの財布はゲーセンでは使えない小銭しか入ってなかったのだ。ほぼすっからかんに近い状態だった。
 クレーンゲームの台を見ているフリをして、アリスはクレーンゲームに神経を注いでいる若者の後ろを通った。そのときだった、歩きを止めないままアリスの手が動き、ズボンの後ろポケットに入っていた財布を抜き取ったのだ。
 アリスは何気ない顔をして歩き、後ろで財布がないと叫ぶ男の声を聞いて足を速めた。
 格ゲーをするユースケの首根っこをアリスは掴み、無理やりユースケを立たせて歩かせた。
「財布すったんだけど、すぐに気づかれちゃった」
「もっとうまくやれよな」
「顔は見られてないし、すぐにクレーンゲームの影に隠れたから後姿も見られてないはハズ。でもさっそと別の場所移動しよーよ」
「オッケー。さっさと出ようぜ」
 2人は何気ない顔でゲーセンの外に出て、すぐにバイクに跨った。
 エンジンを掛けて走り出す前、ユースケが言う。
「俺がやってたゲーム1回分、途中だったんだからおまえに料金貸しだぞ」
「すぐにこれで何倍にして返すから」
 アリスはすったばかりの財布を叩いて笑顔を浮かべた。
 それを合図にバイクは走り出したのだった。