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Journeyman Part-2

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3.プレシーズン・ゲーム



 プレシーズンゲームとは、日本のプロ野球におけるオープン戦のようなもの。
 週に一度しか試合がなく、1シーズン16試合制のNFLではプレシーズンゲームも4試合だ。
 スタジアムに有料の観客を集める以上中心選手も出場するが、とりわけ最初の2試合では中心選手は顔見世程度の出場にとどまり、主に若手選手のテストを兼ねた経験の場と言った要素が強い。
 
 キャンプを終えた時点で、評論家たちのサンダースへの評価はあまり高いとは言えなかった。
 かつてクリーブランド・ランダースに長い黄金時代をもたらした名GM、ジム・ブラウンが選手を集め、ジムの下で長くヘッドコーチを務めたビル・ミラーが率いるとは言え、サンダースは全くの新設チーム、既存のチームに比べてどうしても戦力的に劣ると見られていたのだ。
 ジムの人選に首をかしげる評論家もいる。
 特にスキルを要求されるポジションにベテランを配するのは良いが、選手として晩節を迎えている選手が多く、身体能力が要求されるポジションには前のチームでスターターに手が届かないでいた選手が多い、スタープレーヤーと言えるのはケン・サンダースくらい。
 そこまでは新規参入チームなので理解できる、しかし最重要とも言えるクォーターバックにリック・カーペンターと言うジャーニーマンを据えるとは……FA市場に出ていたクォーターバックは他にもいたし、ドラフトで指名したのも、3巡目以降が順当とみられていたティム・ウィルソン、かつての名GMも今や骨董品になったとまで酷評する者もいる始末だ。
 だが、極端な悪評を別にしても、少なくとも今年のサンダースはまるで1軍半のような陣容だと言うのが大方の見方だった。
 チームをタレントの集合体として見るならば、サンダースはあまり見栄えがしないのは確かだ、選手名鑑を見ればあまりなじみのない名前がずらりと並んでいる。
 だが、実際はその他の『一軍半』たちはジム・ブラウンが目を付けた選手ばかり、ジムが作ろうとしているのはタレントの集合体ではなく『チーム』なのだ。
 要所要所に配された大ベテランに残された選手寿命はそう長くはない、だが、ジムが集めた若手選手たちは、ある者は自分のポジションに規範となるようなベテランがいないチームで、必要なスキルを学べないでいた、またある者は自分のポジションに良い選手がいたせいで出場機会を得られずにいた、そんなポテンシャルを秘めた者ばかりなのだ。
 彼らにとって、追い越すべきベテランがいるチーム、出場機会を得られる可能性があるチームで、経験豊富なベテランのプレーを間近で見ながら過ごすことは大きな意味がある。
 ポジションを確保できていなかった選手にとって。NFLで長く活躍して来た選手は何が出来るのか、それを知ることは重要ではない、何をしようとしているのかを知ること、それが重要なのだ、そしてそれを理解できたなら、彼らはベテランに取って代わることが出来る能力を秘めた選手たちなのだ。
 フットボールに身を投じたからにはNFLの舞台に立ちたいと願わないものはいない、大半のポジションんでスターターが決まっていないと言うことは誰にでもチャンスがあると言うことだ、大きなモチベーションは選手を成長させるものだ。
 そして、キャンプで流した汗の成果が問われるのがプレシーズンゲーム。
 他のチームにおいてもプレシーズンゲームは若手のアピールの場だが、サンダースではアピールは出場機会に直結する、目の色が変わるのは自然なことだ。

 そんな若い選手たちの中にあって、ティム・ウィルソンはとび抜けた自信家だ。
 ドラフト順位が2巡目だったのは単純に身長の問題だと考えている、自分がそれを克服するためにどれだけ努力を払い成果を得て来たのか、自分の視点から見なければわからないだろうとも考えている。
 確かにあと4~5インチ背が高ければ、迫って来る相手のディフェンスライン越しにマークの甘いレシーバーを探すのは楽だし、パスに触れられることも少ないだろう、だが自分にはそれを補う機動力があると自負している、ディフェンスはかわせば良いのだ、何も密集の中でレシーバーを探さずとも、密集の外へ出てしまえば良い。
 リック・カーペンターのパス能力はリスペクトしている、教えを請えば的確なアドバイスを貰えるのもありがたい、だが、自分にはリックが出来ないことが出来ると言う自負がある。
 そしてリックは慎重に過ぎるとも考えている、勝利を得るためには、時にリスクも冒さなければならないと言うのがティムの考え方だ、そして自分はリスクを超えられると言う自信もある。
 ティムにとってリックは学ぶべきところの多い大ベテランだが、近い将来……それこそシーズン半ばには追いつき、追い越せる存在、そう捉えている。

 プレシーズンゲーム第1週のゲーム、先発したのはリック、ケン・サンダースもランニングバックの位置に入った。
 相手のキックオフはタッチバックになり、自陣25ヤード地点から始まったそのシリーズ、リックは2度のファーストダウンを更新したが、相手陣内に入ったサードダウン8ヤードでケンに投げたスクリーンパスは5ヤードのゲインに留まり、ファーストダウンを更新できずにパントで攻撃権を手放した。
 だが、ティムはそのプレーで大学時代からの盟友、ジミー・ヘイズが相手陣内25ヤード地点でフリーになり、『こっちだ』とばかりに手を挙げているのを見逃さなかった。
(ジミーに投げていればファーストダウン、上手くすればタッチダウンにもなったのに)
 ティムはそう考えていた、自分ならば迷わず投げていたと。

 ハーフライン近くからのパントは相手陣内10ヤード近辺まで飛び、リターンも封じて相手の攻撃は一度もファーストダウンを更新できずにパントで終わった、そして自陣40ヤード近辺から始まったサンダースの攻撃シリーズはまたも2回のファーストダウンを得て、飛鳥のフィールドゴールに繋げ、サンダースは3点を先制した。
 実際の所、リックにオープンになっているジミーが見えていなかったわけではなかった、だがジミーに気づいて動き始めていたセイフティにも気づいていたのだ、それゆえリックはケンにパスを投げた、ケンの個人技でファーストダウンが取れれば良いが、取れなくても押し込んだポジションからパントを蹴らせれば良いフィールド・ポジションでボールが得られる、リックはそこまで読んでいたのだが、ティムにはジミーしか見えていなかったのだ。

「ティム、次のシリーズから行くぞ」
 ビルにそう告げられてティムは気を引き締めた、概ね予定されていたプランだから驚きはしないが、プレシーズンゲームとは言えティムにとってはプロデビューなのだ。

 飛鳥のキックオフは相手を自陣深くに押し込んだものの、2回ファーストダウンを更新され、相手の好パントでサンダースは自陣5ヤード付近まで押し込まれてボールを得た。
 この位置からパスを投げるのは危険だ、サンダースはケンにボールを持たせて15ヤード進み、自陣20ヤードからのファーストダウン、ここでティムは初めてパスを投じた。
 盟友ジミー・ヘイズへのミドルパス、だが、相手のコーナーバックに阻まれた。
作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST