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短編集21(過去作品)

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 夢で見る和子の表情は、どこか妖艶な感じがする。艶めかしい動きの一つ一つに無駄がないのだ。それに比べ最近の和子の表情になぜか無駄な部分を感じる。記憶の奥にいる和子は純情無垢なところがあり、それぞれの何処が違うかというと、やはり余裕の有り無しが微妙に影響している気がして仕方がないのだ。
 記憶の奥の和子はあまりにも無駄な部分が多い気がする。ある意味「スキ」がありすぎるというべきか無防備なのだ。彼女のそれは、大人の世界のドロドロした部分を知らず、駆け引きなどまったくないのである。
 まるで砂場で遊ぶ幼稚園児がまわりを見ずに、一生懸命に自分のことに集中している穢れのない目のようだ。黒い瞳に写った相手の姿を確認できるほどに透き通った目をしているのだ。
――和子とは幼なじみだったんだ――
 そんな風に何度思ったことか。しかし、和子と知り合ったのは紛れもなくここ半年くらいのもので、それも彼女の方から声を掛けてくれるというセンセーショナルな出会いだったのだ。
 それまでの私は、自分に男としての魅力はなく、女性にモテるなど信じられないことだった。もちろん男なので女性にモテることを願っている。そのために雑学の本を読んでみたりして話題性だけは提供できるようになろうと考えていた。実際にコンパなどをしても私の話題に飛びついてくれる女性もいるにはいる。しかし、いつもそこまでで、おいしいところを持っていくやつはどこにでもいるもので、私はそのためのエッセンスを演じさせられていた。
――まるで道化師だ――
 何度思ったことか。
 だが、それでもいいと思った。
――そのうちに自分に合う女性が現れる――
 そう思うことが次へのステップだと信じていた。
 しかし、さすがに何度も続くと自己嫌悪に陥ることもある。
「俺って一体何なんだ?」
 叫びたかった。心の中で、
――そういう人生だって必要なんだよ。甘んじてそういう個性でいいじゃないか――
 と、自らを慰めてみるが、所詮男としての意地とプライドには勝てず、結局いつも悩んでいるのだ。
 そんな中現れたのが和子だった。
 友達が組んでくれた合コンだったのだが、声を掛けたいと思いながらも頭の中で迷っているせいか、言葉が出ない。結構人数はいたのだが、その中でも目を惹いたのは和子だったのだ。
――結構、かわいいな――
 最初からそう思っていたのは事実である。しかしそれ以外に、どこかで見たことあると感じたことは否めなく、気がつけば彼女を凝視していたらしく、嫌が上にも本人も意識するというものである。
 それに気付いた彼女は、
「こんばんは、おとなしいですけど、あなたはこういうところお嫌いですか?」
「え、そんなことないですけど」
 いきなり聞かれて返答に困るような質問だった。
「実は私は、ただの人数合わせですのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、でもこういうところに来るのは嫌いじゃないですね。今日も私の方から来ると言いましたのよ」
 スリムな身体ではあるが、ワンピースを着ていると胸の形が綺麗に見え、プロポーションは抜群である。赤いワンピースに似合うような真っ赤な口紅、元々からであろうが、白い肌がさらに白く見えるという演出も見事である。
 喋り方はまるでお嬢様のような落ち着きはあるが、笑顔には子供のような無邪気さがある。きめ細かな白い頬にえくぼができるのでは、と思うほど笑うとクシャクシャな顔になっている。
 その顔を見て懐かしく感じるのだ。子供の頃によく遊んでもらった近所の女の子がいたが、その娘とダブッて見えてくるから不思議だった。
――そういえば、子供の頃のことをよく夢に見るな――
 和子との初対面の時に感じたことだったと思う。しかし、今まで目が覚める前の意識が
ハッキリとしない中で、別に子供の頃の夢を見たわけではないはずなのに、何となく子供
の頃を懐かしく感じていることが多い。記憶としては、明らかに子供の頃の夢ではないにもかかわらずである。
 小さい頃いじめられっこだった私は、助けを求めているわけではないのに、必ず誰か助けてくれる人がいた。その時々で違うのだが、今から思えば不思議なことだ。子供の世界は意外と残酷なのかも知れない。そんな中、嫌気がさす人がいても不思議のないことだ。
 回数的にはその女の子が多かったのかも知れない。しかし不思議なことに懐かしいその顔は何となく思い出すのだが、名前を思い出せないのだ。しかも、彼女とはいつも学校からの帰り道を楽しくおしゃべりしながら帰っているというイメージしか湧いてこない。しかし、それでも夢から覚めるハッキリしない意識の中で「楽しい思い出」としてよみがえってくるのだった。
「僕もこういうところへ来るのは嫌いじゃないですね。元々三枚目を演じるのは嫌いではなかったからですね」
 半分冗談、半分本音である。
 確かにおいしいところを持っていかれるのは辛いものがある。
――今まで虐められていたことを思えば、まだいいじゃないか――
 そう思って自分を慰めていた。現実問題として意地やプライドだけでモテるわけもなく、下手に無理をすると自分が苦しいだけである。
――ひょっとして現実から逃げているのでは?
 と思ってみても、どうなるものでもない。
 甘んじてピエロの役を演じてもいいと考えたのは、いい友人ができたからだろう。それまで自分がいじめられっこだったことに正面から向き合うことを勧めてくれた友達は、私の行動一つ一つに忠告してくれた。それこそ私の意識していなかった世界を穿り返すかのごとくである。
 彼も幼なじみである。なぜかあまりいじめられっこだった頃のことの記憶が断片的だったのだが、彼は少なくとも私をいじめるようなことはしなかった。助けてもくれなかったが、その頃に傍観者になっていた自分を、
「すまなかった」
 と言って謝ってくれた上での親友関係となったのだ。
 名前を直哉というが、実は和子と知り合うきっかけとなった合コンをセッティングしてくれたのも直哉だったのだ。
 直弥の忠告はそれこそ半端ではなかった。結構きついことを平気でズケズケと言ってのけ、たまにその場から逃げ出したくなるくらいの時もあった。しかし、
「今までの正直な自分が分からないと、変えようとする新しい自分を発見することなんてできないぞ」
 それが直哉の口癖だった。
 私が顔を真っ赤にして、露骨に嫌な顔をする時、直哉の顔も紅潮していた。一生懸命に私を見つめるような目で訴えられると、さすがに逆らえなくなってしまう。まさに蛇に睨まれたカエルそのものである。
 直哉はしつこいくらいに私に構ってくれた。小さい頃のお詫びということらしいが、私にはそんな直哉が「初めてできた親友」のように思えて仕方がない。そのことを話すと、「よせやい、恥ずかしいじゃないか」
 そう言って顔を赤らめる。何度となく一緒に呑みに行くと、
「俺はこう見えても恥ずかしがり屋だからなぁ」
 顔はゆでタコ状態になってしまう。呑みに行った時など、それまで私の悪いところばかりを指摘してその時の意識を思い出させようとしている直哉が、一生懸命に謝っている。
作品名:短編集21(過去作品) 作家名:森本晃次