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茨城政府

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「Hyakuri Tower.Mammoth01 scramble.(百里管制塔、こちらマンモス01スクランブル発進です。)」
−Mammoth01.Hyakuri Tower,taxi approved.(マンモス01、こちら百里管制塔 地上走行を許可する。)−
 整備員の誘導で格納庫から出た第七航空団 第三飛行隊所属のF−2A戦闘機は濃紺と青灰色の洋上迷彩の機体に陽光を鈍く反射させながら目の前の滑走路を目指す。
「Mammoth01,Hyakuri Tower scramble taxi to runway03.」(マンモス01こちら百里管制塔。スクランブル発進。滑走路03へ向かへ)
「Mommoth01 roger taxi to runway03.」(マンモス01了解。滑走路03へ向かう)
−Mommoth01,Order,vector200,climb Angels2.5.Contact channel5.Read back.(マンモス01 スクランブル指令、方位200度(南南西)、高度2,500フィート(約760m)まで上昇、チャンネル5で交信せよ、復唱どうぞ)−
管制官の冷静で乾いた声がレシーバーに響く。待機高度がたったの2,500フィートということに疑問を感じたが確かめる時間がもったいない。
「Roger.Mammoth01.Vector200,climb Angels2.5.Contact channel5.(了解、マンモス01、方位200度、高度2,500フィートまで上昇、チャンネル5で交信する。)」
レシーバーには始終自分の酸素マスクを通した呼吸の音が大げさに響く。まるで、水中カメラでリポートするアナウンサーのようだ。
−Mammoth01.Read back is correct(マンモス01、その通り。)−
復唱を確認するとほどなくして滑走路の入り口にが目に入ると再び管制官の声が響く、
−Mammoth01.Wind calm,runway03 Clear for takeoff(マンモス01、風は微風、滑走路36からの離陸を許可する。)−
「Roger Mammoth01.Cleared for takeoff.(了解、離陸します。)」
 そのまま滑走路に入って一旦停止する。2番機が右側に並んで停止したことを確認した鳥谷部は踏み込んだブレーキをそのままにスロットルを前方に動かしてエンジンを吹かす。各種計器に異常がないことを確認すると素早くスロットルを戻す。同じようにエンジンチェックを終えた2番機パイロットが頷くと鳥谷部は親指を立てて正面を向き、スロットルを前方いっぱいへ押し込む。そしてアフターバーナーに点火すると、高まった轟音に一拍置いて爆音が加わりジェットノズルがオレンジの炎を引く。翼が浮力を得ると小さく機首を上げ滑走路から離れた車輪を格納すると、さらに機体は加速する。そのまま超低空で速度を稼いだ鳥谷部は一気に機首を上げて位置エネルギーへと変える。一刻も早く地面から離れて攻撃に備える離陸方法だ。右隣に阿吽の呼吸で位置する2番機を確認する。
「Mammoth.Airborn.(マンモス。離陸した。)」
管制塔に報告した鳥谷部は、ほどなくして機首を水平に戻す。空へ舞い上がった猛禽にとって指示された高度2,500フィート(約760m)は今風の言葉で言うと「秒で到達」だ。
「エイワンより、マンモスリーダー。」
レシーバーに張りのある声が響く。「エイワン」はパイロットでもある第7航空団百里基地司令のTACネームだ。
 TACネームとはパイロットの「もうひとつの名前」で、無線や隊内での会話に使ったりヘルメットや救命具にも記入している。ちなみに鳥谷部はそのガッチリとした体格と野性的な風体から「Gori」2番機の高山は学者風の見た目から教授で「Kyoju」だ。司令の石山栄一は、名前の栄一から一を英語読みにした「エイワン」だ。
「エイワンこちらマンモスリーダー。どうぞ。」
 スクランブル中に司令が何の用だろう。右後方に位置する2番機に目を向けるとダークグレイのヘルメットに斜めにKyojuと黄色のステッカーを貼った頭を左右に振る様子が見える。教授も分からないらしい。そもそも指示された高度が低すぎる。旋回を終えた教授の後方には筑波山の山頂が重なる。低すぎる。
「こちらエイワン。先ほどの白い光は君達も見たと思うが、それ以来、すべての通信が途絶えた。現在も総隊司令部を含め他の基地とも通信不能だ。データリンクもダウンしたままだ。調査しているが機器の故障とは考えにくい。あの閃光が原因だとしたら、核攻撃も考えられる。」
一旦、噛み締めるように間を置いて、石山が続ける。
「最悪の場合を考え、独断でスクランブルを掛けた。東京コントロール(東京航空交通管制部)とも連絡が取れないので、どの空域が空いているかも分からない。従って現在の高度を維持し、VFR(有視界飛行)で東京を偵察せよ。コースは随時指示する。何かあったらすぐ連絡すること。無理せず気を付けて掛かれ。以上だ。」
「マンモス01ラジャー」
「マンモス02ラジャー」
 状況は呑み込めないが、質問しても答えられるだけの情報が司令にはない。それ故のスクランブル発進なのだから。溢れる疑問を抑えた抑揚のない声で2人のパイロットが答えた。

−−−東日本鉄道 茨城指令室−−−
「停電発生!勿来〜いわき間!」
薄暗い部屋に警告音が鳴り響き、最前列で何枚もの画面に向かいヘッドセットを付けた指令員が声を張り上げる。後方にいる線区長や指令長、そして他の指令員に情報共有するためには、前方の画面に向いたままで後ろに声を届かせなければならない。その隣で別の指令員が集中電話装置の画面をタッチしながら各駅を呼び出している。一斉にざわめき、罵声や怒声まで混じる。
「以北もです。停電発生!いわき〜大隈間!」
 常洋線のいわきから北を担当する卓からも大声が響く。喧噪の中でも通る大声が出せることが指令員の基本だ。
「止めろ、列車を止めろ。ためらうな。」
 後ろからの怒鳴り声に指令員は右手を挙げながら了解の合図で応じ、左手で無線機の受話器上げる。
「こちら茨鉄指令、こちら茨鉄指令、全列車止まれ、止まれ。全列車止まれ、止まれ。」
 何が発生しているのか、まずは止めて安全確認をしなければならない。それは先頭の列車の安全を守るだけでなく、後続列車を放っておくと列車が数珠繋ぎのように詰まってしまい、最悪は駅と駅の中間に停車させてしまうこととなり、乗客を長時間車内に閉じ込めることになりかねないからだ。
「1561Mが大津港〜勿来間にいます。」
画面から勿来駅の手前に列車がいることを確認した指令員が声を張り上げると無線で呼びかけた。
「こちら茨鉄指令、こちら茨鉄指令。1561M運転士停車しましたか?どうぞ。」
「呼び続けろ!異常区間に列車はいないか?」
 線区長の怒号が飛ぶ。
「南は藤代に停車中です。抑止しました。」
 常洋線の状況に注視していた室内の空気を新たなアラームが掻き乱す。アラームは一挙に種類と音源を増し、各卓で異常を知らせる指令員の声が一斉に上がる。
作品名:茨城政府 作家名:篠塚飛樹