小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

May the 4th

INDEX|1ページ/1ページ|

 
― 2017年5月4日

 トロント市内某所で、サラはスティーブンを抱っこしてお散歩していた。彼らが街の光景を見ながらゆっくり進んでいると、顔も体型もモデル級に美しい悪役女優・堕術威蛇子(だすべ いだこ)を見た。スティーブンは彼女の姿を見ると、声を上げて泣き出した。威蛇子も赤ちゃんの泣き声のしたほうを見たが、一瞬だけ迷惑そうな顔をして、自分は関係ないと言わんばかりにぷいと顔を背け、黙ってその場を後にした。一方、サラのほうは泣きじゃくる幼子の口におしゃぶりをさせたが、その子はすぐにまた泣き出してしまった。若い母親はおろおろした様子でその子をあやしていた。しかしずっと立っているわけにもいかないので、また歩き出した。

 サラは数十メートル歩いたが、スティーブンはなかなか泣き止まなかった。しかし、数分後のことであった。サラと同じぐらいの年と思われるアジア系の男性が、向こうから歩いてきた。背はそんなに高くないが手足が長く、体全体から凛とした雰囲気を漂わせていた。不思議なことに、泣きじゃくっていたスティーブンがその青年の姿を目にすると、ぴたっと泣き止んだ。これにはサラも驚き、腕の中の息子と向かい側に居るアジア系の青年を交互に見た。そして、彼にこう尋ねた。
「あの、失礼ですが、ルウク・ユウキさんですか」
「はい、そうです」
 青年の答えに、サラは言葉を出さずに口を開いた。この不思議なオーラをまとったような青年は、その名前ゆえに一部では「銀盤のルーク・スカイウォーカー」とも呼ばれるフィギュアスケートのオリンピック金メダリスト、結城瑠久(ゆうき るうく)選手だったのだ。サラは、軽く興奮しながら言った。
「会えてうれしいです!もし時間があれば、写真を撮ってもいいでしょうか。この子を抱っこして」
「あの、1枚だけですけど、いいですか」
「はい」
「分かりました」
 結城選手の返事を聞き、サラはスティーブンをこの一流アスリートに抱っこさせた。スティーブンは、この人だあれ、と言いそうな顔で結城選手を見つめていた。この赤ちゃんの様子を見て、彼は首を少しだけ傾け、柔らかい表情を浮かべた。その子も彼のまねをするかのように、首を傾けた。これには、銀盤のルーク・スカイウォーカーも細い目を一層細めた。
「すごいかわいい」
 そうつぶやくと、彼はスマートフォンを構えたサラのほうを向き、リンク上ではあまり見せない人懐っこい笑顔を見せた。名も知らぬ幼子を腕に抱いて。抱っこされているスティーブンは、くりくりした目でカメラのほうを見ていた。そしてサラはシャッターボタンを押した。
「取れました?」
 彼女は撮った写真を彼に見せた。すると若きオリンピックチャンピオンは、満足げに右手でOKサインをした。


 この日一緒に写真を撮った赤ちゃんが15年後、カナダの大人気バンドに加入し、カナダロック界にセンセーションを巻き起こすことになろうとは、結城瑠久には知る由もない。
作品名:May the 4th 作家名:藍城 舞美