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桜恋う月 月恋うる花

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序章




 目の前にある光景に唖然とした。

「確かに『薄桜鬼』の世界は好きだけれどね……」

 思わずぼそりと呟いてしまう。

(だからって、心の準備もなしにこの世界って何?)

 確か自分達は、敵に向かっていたところではなかっただろうか?
 あれやこれやと策を練り捲り姑息な手段で掛かってくるあの策略家気取りを、何とか追い詰めた瞬間、気が付けばここにいた。
 それでも危機感が高まっていた最中からこの場に来てしまった所為か、パニックを起こしながらも冷静な部分は残っているらしい。
 無意識に周囲の状況を確認して、和麻さんも綾乃も煉も一緒だと判った。足の下は瓦屋根だけれど、周囲に人がいない事を確認する。

「こ、こ、ここ、どこ……モガッ!?」

 漸く膠着状態から脱したらしい綾乃が悲鳴を上げるのを口を覆って寸でで塞ぐ。

「パニクって悲鳴を上げない。冷静に落ち着いて行動する。基本中の基本でしょ」

 相変わらずこの娘は冷静な行動が出来ないわね。耳元で脅すように低い声で囁いてやると幾分落ち着いたようで、高まっていた〝気”が鎮まっていく。この娘が感情のままに気を昂らせると、炎の精霊を呼び集め放題になるから物騒なのよ。

「し、静香……姉様……」

 小声になったところで、和麻さんと煉を振り返る。見れば煉が悲鳴を上げなかったのは、和麻さんが口を塞いでいた所為と知れた。思わず溜息が出る。

「取り敢えず、和麻さん、万が一にも姿を見られないように空中に浮いて姿を消せる?」
「全員か?」
「少しの間だけね」
「承知」

 余分な説明を求めるよりも迅速に行動してくれる。やっぱ、歴戦の戦士よね。こういうところは、若いくせに伯父様達並に冷静だわ。
 和麻さんの風魔術で姿を隠して事態を見られる位置まで飛び上がる。
 予想通り見覚えのある町並みは、小説やアニメになった『薄桜鬼』の世界の京の町だった。
 件の男装の少女はこれまた予想を裏切らず、浪士に追い掛けられている雪村千鶴である。
 冬の月夜の晩、しかも小雪がちらつく寒さ。
 間違いなくヒロインが新選組と出会う場面だ。

「原因は理解らないけれど,現状としては、私達が今いるのは幕末の京都。浪士に追い掛けられている子は雪村千鶴。『薄桜鬼』という物語のヒロイン。今この瞬間にここにいるという事から、私達は彼女と関わらなければならないと思う」
「……面倒そうだな」
「こういう場面のセオリーとして、ミッションをクリアしないと還れないんじゃない?」

 この事態を仕掛けたのが、あの策士気取りの狂人でも、他の要因でも、兎に角ミッションをクリアしないと戻れないと思うのよね。

「で、どうするんだ?」
「速攻でクリアは不可能。問題はミッションの内容が不明な事。後、何よりここって幕末の京都の冬の夜だから、このままじゃ凍死するから、今夜の宿の確保が急務だと思うの。」
「……物語の中に関わるわけか?」
「う~。多分?」
「綾乃の修行になるか?」
「ああ。それはなると思うよ。綾乃にも煉にもいい修行場でしょうね。」
「ふん。なら、還る為の協力は一応してやるよ。」
「ヒロインを通して主要人物達と関わってみる。呼ぶまで姿を隠して傍にいてくれる? 特に綾乃?」
「な、何?」
「ちょっと魔に関わる存在があるけれど、何を目にしても暴走しないように。いいわね?」
「わ、わかった」

 真剣な視線を向けると、訳が理解らないながらも勢いに呑まれたように頷いた。

「その物語とやらをお前は知っているのか?」

 和麻さんはどこ吹く風で平然としている。もしかしたら『羅刹』の気配を感じているのかも知れない。余計な手出しをしない人だから障害にはならない。綾乃の暴走を止めるだけはして欲しいのだけれど、只働きはしない人だから無理かしらね。

「うん。で、これから壬生まで歩く事になるから、その間に和麻さんは郊外の気配を探って? 三昧真火があるなら名乗りに神凪は使わない方が良いわ」
「幕末で、壬生ってぇと、新選組、か?」
「当たり。流石は元優等生」

 幸いにも私は、戦闘服としている袴姿だ。旅装ではないけど、何とか言い繕えるだろう。
 新選組の三人が駆け付ける筈だから、刀無しじゃ拙い。
 精霊を呼び集めて大刀を象って貰う。
 逃げ惑う千鶴ちゃんの息が上がっている。
 いい加減限界だろう。
 千鶴ちゃんが左右に視線を走らせながら後ろを振り返る。物陰に隠れようとしているのだろうな。
 私は和麻さんに合図を送って、その先にすとっと飛び降り、物陰から手を伸ばし千鶴ちゃんの手を引いた。

「だ……っ」

 声を上げそうになるのを片手で口を塞ぎ、浪士達から見えない位置に引き込む。そのまま耳元に口を寄せて囁く。

「じっとして動かないで。見つかりたくないでしょう?」

 浪士達の気配は必死になって千鶴ちゃんを探しているけど、すぐにそれどころじゃなくなる筈。
 案の定、すぐに怪しい不穏な気配がした。

「ひゃはははははっ!」

 先程まで千鶴ちゃんを追い掛けていた浪士達の悲鳴と、『羅刹』の狂ったような笑い声が聞こえた。

「えっ? 何……っ」

 恐怖しながらも好奇心でか探究心でか、覗き込もうとする千鶴ちゃんの首筋に手刀を叩き込み、羽織っていた羽織に包んで小路の奥に転がす。

「好奇心は猫をも殺すって諺があるのよ。この時代のこの年頃にしては子供っぽいわね。」

 新選組と関わらなければならないのは仕方のない事なのだけど、せめて千鶴ちゃんが恐怖心でがちがちにならなくて済むようにしてあげたい。
 会津藩や京都所司代預かりにしてしまうと、千鶴ちゃんの立場上、待っているのは自由を奪われる事。
 新選組に連れて行っても、藤堂君や永倉さんの迂闊さで知らなくてもいい事を知っていくかも知れないから拘束されるかも知れないけど、〝恋”は自由だ。
 気絶させたから、何も見ていないそこに居合わせただけの子供、の出来上がり。
 新選組に助けられた唯の目撃者じゃお荷物扱いされるから、『羅刹』を少し始末してしまおう。腕が立つだけ厄介と思われても反面利用価値が上がる筈だもの。


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙