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内藤にとっては父親の仇を討つという目的が別にあった。究極的には事故の原因が公表されようとされまいとそのことに憤りを感じたりすることは少ないだろう。
しかし、父親を誘拐または殺害した犯人だけは許せない。少なくとも実行犯が名乗り出ないのなら、その組織を叩くしかないと考えていた。
目の前にいる奴らがその犯人グループだとすれば下手な妥協はするべきではないと言い聞かせていた。

「お前たちがやったことは許されることではないが、私が今回裁判で明らかにしたい真実とは別に個人的な恨みを晴らすという目的もある。父親を誘拐し多分殺害した犯人が解るのなら、取引に応じても良い」

「取引とは裁判を取りやめるということか？」

「事実上遺族会から降りる」

「証拠も証人も提供しないと約束するか？」

「梓は飛行機事故が意図的なことで引き起こされたと知っているから、私が手を引くと言ったら許さないだろう。だから犯人グループと命の安全と交換したと言おう」

「なるほど。内藤さんの取引を上に伝えよう。結果は検討して返事するだろう。全面解放は出来ないが、警備をつけて都内のホテルへ移動してくれ」

内藤は心の底では自分を拉致した犯罪組織を許せないと考えていたが、彼らのいうことがやっていることが本当なら、自分の意志を貫くことが梓どころか、エイブラハムの命まで危険にさらすことになると判断した。

都内の一流ホテルへ案内され、スイートルームへ通された内藤は、自分がどういう状況に置かれているかということを改めて知らされた。
そして、室内には男性のSPらしき人物が付き添っている。
彼に話しかけても一切の応答はない。そう指示されているのだろう。

内藤が夜を迎える時間になって梓とエイブラハムはワシントンDCに到着した。
何も知らない梓は内藤に無事を知らせるラインを送った。
既読にならないことを不審に感じたのでエイブラハムに伝えた。

「エイブラハムさま、内藤さんに送ったラインが既読にならないのですが、何かあったのでしょうか？」

「そうなのか。向こうは今何時だ？」

「え～と、確か12時間過ぎているから夜の九時ごろだと思います」

「じゃあ、起きているだろうから電話をしてみよう」

エイブラハムは手にしているスマホから電話を掛けた。
電源が入っていないか圏外にいるとメッセージが流れる。