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ハルコ ~1/2の恋~

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 帰省するのは五年ぶりになる。
 大学一、二年の頃までは盆と正月くらいは帰ってきたが、その後はすっかり足が遠のいてしまっていた。
  
 俺は東京の、まあまあ名の通った大学に進学し、卒業後もそのまま東京で働いている。
 大学三、四年の時は実際バイトや就職活動で忙しかったこともあるが、自分が都会に染まっていくにつれて田舎が野暮ったく、退屈に思えて敬遠していたのだ。
 だが就職してめまぐるしい毎日を送っていると、ふと懐かしく感じるようになっていた。
 皮肉なもので、時間がたっぷりあるときは帰る気がせず、帰りたくなった時には時間がない、まぁ、そんなものかもしれないが……。
 
 お盆の時期は手薄になるから、と渋る課長に深々と頭を下げてまで久しぶりに帰省したのは祖母の新盆だったから。
 子供の頃は、朝早く田んぼに出て夕方まで帰らない両親よりも祖母と過ごす時間が長く、それなりにおばあちゃんっ子だったのだ。
 祖母が亡くなった時、俺は丁度海外に出張中で、死に目に会えなかったどころか、葬儀に駆けつけることが出来なかった、それが心残りだったので今年はなんとしても帰省したかったのだ。

 田舎のこと、新盆とあれば親戚一同だけでなく、近所の人たちも集まってくる、俺の幼馴染も顔を見せた。

「よう、ケンイチ、しばらくだな」
「おお、ケイタか、お前、変わらないなぁ」

 ケイタとはよく気が合い、ケイタが腕力で、俺が知力で近所の悪ガキ五人組を束ねていた。
 もっとも、腕力も知力も東京ではさほど目立つほどのレベルではないが……。
 ケイタは地元の工業高校を卒業して家業の鳶職を継いでいる。
 よく日焼けした顔に真っ白な歯、と聞けば爽やかなイメージを思い浮かべるかも知れないが、実際には小麦色と言うよりどす黒い顔に煎餅を五枚重ねて噛み砕きそうなごつい顎、俺の記憶の中に存在するケイタに鳶職人のエッセンスを数滴加えればこの顔になる。
 要するに、屋外の力仕事に従事している頑強な男の顔だ、日焼けサロンで肌を焼いてマニキュアを塗って歯を白く見せただけのチャラ男とは一線を画す。

「お前はすっかり垢抜けちゃってよ、東京でもモテてるんじゃねぇ?」

 いや、特段にモテないということはないが、モテる方とも言い難いのだが……しかし、同年代が皆ケイタみたいなのばかりだとしたら案外こっちではモテるかも……。
 そんなさもしい考えが頭をよぎる。

「そんなこともないけどさ」
「お前、いつ東京に戻る?」
「明後日の午後の切符を買ってあるんだ」
「だったら、明日の夜、町まで飲みに行かねぇか? ユウジとトオルにも声かけてあるんだがな」
 
 ユウジもトオルも子供の頃一緒に遊びまわった悪ガキ五人組の面子……久しぶりに一杯やるのも悪くない……どうせヒマだし。

「あ、でもバスはあるのか?」
「トオルがクルマ出すよ」
「飲みに行くんだろう? 車は拙いんじゃないか?」
「この辺でパトカーに停められることがあると思うか?」
「いやいや、そう言う問題じゃないだろう?」
「ははは、冗談だよ、トオルは飲みの雰囲気は好きだけど下戸だ、心配するな、あいつは村役場の職員だから村人には奉仕する義務があるのさ」
「それも違うと思うが、まあ、そう言うことなら安心だな、行くよ」
 思いがけず悪ガキ仲間の同窓会になりそうだ……。


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「ハルコ居る?……って店が開いてりゃ居るに決まってるか」
「あら、ケイタさん、いらっしゃい」
 
 ケイタが案内してくれたスナックは、しゃれたつもりだが野暮ったい、というよりしゃれたつもりが野暮ったさを強調してしまっているような冴えない店だったが、出迎えてくれたのは飛び切りの美女だった。
 顎が細いすっきりとした輪郭、切れ長の目、緩やかなカーブを描く細めの眉、小ぶりな鼻に薄目の唇、ナチュラルなメークがそれぞれのパーツを引き立て、つややかなストレートロングの黒髪が全体を和の雰囲気にピタリとまとめている。
 しかも着ている物は浴衣……安っぽいドレスなんかだったら少しガッカリだが、浴衣は彼女にばっちり似合っている、髪を結い上げずに下ろしたままなのも少し崩した感じでそこはかとない色気をかもし出している。
 メイクバッチリモデル風とか知的キャリアウーマン風とかキャピキャピアイドル風とかの型に嵌まった美女とは一線を画する、等身大で生身の美しさだ。
 多少オミズっぽさはあるものの、彼女の美しさの前ではそれも個性の一部と感じられる。
 野暮ったいインテリアですら、彼女をそこに置く事でレトロと言い換えたくなるほどだ。。

「ユウジさんもトオルさんもいらっしゃい……あら、もしかしてケンイチさん?」
「え?」

 ケイタは彼女をハルコと呼んだ、ハルコ……ハルコ……幼馴染にそんな名前の女の子はいなかった……小学校は近所の子ばかり、一つ二つ歳が違ったとしても皆顔なじみのはず……あ、そうか、源氏名という可能性も……。
 驚きついでに彼女の顔をまじまじと見るが、思い浮かぶどの顔を彼女の顔に重ね合わせてみても一致しないどころか一致するパーツすらない。

「おい、ケイタ、彼女、俺を知ってるみたいなんだけど……」
「そりゃ知ってるさ、お前は思い出せないのかよ」
「こんな美人いたかなぁ……」
「ハルコ、ケンイチはお前を思い出せないみたいだぜ」
「そうねぇ、そんな冷たい人だとは思わなかったなぁ……美人って言ってくれたのは嬉しいけど」
「ちょっ、ちょっと……ちょっと待って、今すぐ思い出すから……」

 この美人の機嫌を損ねたくない、俺は焦りつつ中学まで記憶を探る範囲を広げた。
 中学となると隣村と合同だったから同級生の数は倍に膨れ上がる……全員の顔を思い浮かべることは出来ないが、これだけの美人だから中学の時だって気になっていないはずはない、思い出せる限りの顔を彼女に重ねてみるが……ダメだ。

 だとすると高校か? 俺たちの中学からあの高校へ進学したのは俺一人、ケイタたちと繋がるはずは……いやいや、この田舎じゃ飲みに行く場所など限られてる、このスナックで話をしていてたまたま俺の話題が出て……と言う事も考えられる……。
 そして、高校まで範囲を広げると少しは近い顔も思い浮かぶ……。

「え~と……佐藤さん?」
「ブー」
「じゃぁ……鈴木さんかな?」
「ブブー」
「じゃぁね……え~と、え~と……田中さん、田中百合枝さん!」
「ブッブー!」
「こいつ、本気で思い出せないみたいだぜ、可哀相だから教えてやるか?」
「まだ早いなぁ……あ、そうだ、ケイタさん、焼酎のボトル、ほとんど残っていないわよ、新しいの入れる?」
「入れるけど、せっかくケンイチと久しぶりに会ったんだから、少ししゃれてウイスキーにするか」
「角でいい?」
「ああ、それでいいよ」
「水割り? ハイボール?」
「とりあえず今日も暑かったからハイボールで行こうか」
「あ、トオルさんはアルコールなしの烏龍茶だったわね?」
「そう、こいつって昔から酒ダメだったんだよな」
「止めてくれよ」
 トオルは半分可笑しそうに、半分迷惑そうに笑う。
作品名:ハルコ ~1/2の恋~ 作家名:ST