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翼をください

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「なあ、悪いんだけどさ、弁当箱開けてくれねぇ?」
 母親や看護婦さんなら言わないでもしてくれていた事をいちいち頼まなくてはならない。

「悪い、ノートのコピーとってくれないか?」
 手首に付いた親指にくくりつけたシャーペンでの筆記は、とてもじゃないが授業に追いつかない。
 その上、ページがめくれないからコピーも取れないのだ。
 体育の授業もまた問題だった、着替えは友達に手伝ってもらうにせよ、人間の体は腕を振れないとバランスが取り難い、走るにしても翼を広げれば空気抵抗が半端ではないから、全ての運動は腕を後ろに組んでしているようなものなのだ。
 プールはもっと悲惨だ、四メートルの翼に受ける水の抵抗をどうしろと言うのだ、俊彦がプールに入った様はどう見ても鳥の水浴びだ。
 そして、学校側の配慮で一基だけウォシュレットが設置されたものの、身障者用の広いトイレでなければブースに入ることもかなり難しく、何とか翼をねじ込んでもドアの開け閉めは友達に頼むほかない……。
 
 ロマンチズムに酔った浅はかな望みだったとは言え、子供一人の命を救った褒賞がこれでは……。
 俊彦にとっては災難以外の何物でもない。

 しかし、必ずしも悪いことばかりでもなかった。
 とにかく目立つ、それだけは折り紙つきだ。
 それまでは存在感がイマイチ薄かった俊彦だが、今や学校中誰一人として俊彦を知らない者はいない。
 これまでは見向きもしてくれなかった女子も寄って来た……まあ、もの珍しさに釣られてだが……。
「翼に触ってみてもいい?」
 女子にそう訊かれれば断る理由はない、すると必ず帰って来るのが、「わ~、スベスベ、気持ち良い~」と言う反応、それに悪い気がするはずも無い。
 そして冬になり寒くなって来ると、「大川君、翼で包んで~、暖めてよ」 などと言い出す女子も……。
 しかも、年中大きな空気抵抗に晒されているので、大胸筋はかなり発達して来ている、厚さ50センチにはまだまだ及ばないものの、そこらのボディビルダー顔負けの筋肉になっている。
 逞しい大胸筋と暖かくスベスベの翼……『大川君のハグ』は今や女子の憧れだ。

 そして……。
 木枯らしの吹く寒い日、「大川君、翼で風を遮ってくれる?」と取り囲まれて、翼を広げた時、ふと体が浮く感覚を覚えた……いや、実際十センチほどだが体は確かに浮いた。
(これは、もしかして……)
 風に向けて翼を広げる練習をしていると、風を捉える感覚を徐々に憶えて来た。
 そして……ついに舞い上がることに成功したのだ。
 まだ羽ばたきの力で飛ぶ事は出来ない、しかし風に対して羽の角度を調整することで体を浮かせる事は出来るようになったのだ。
 そうなれば今度は滑空だ。
 まずは朝礼台の上から、次は二階の窓、三階の窓からと練習を積み、そこそこの距離を飛ぶことが出来るようになった。
 それは最高の経験だった……。
 俊彦は、人類史上初めて自力で飛べる、文字通りの鳥人間になったのだ。

 ハンググライダーでも飛べる?
 確かに飛べる、まがりなりにも……。
 しかし、俊彦の翼はナイロンの布などではない、自前の翼なのだ、微調整が出来る事はハンググライダーの比ではなく、風さえ吹けばどこまででも舞い上がることが出来るし、滑空速度も自在だからピンポイントで着地地点を選べる、ここまで空を制した人間はいまだかつていなかった。

∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

「大川君! やめるんだ! 早くそこから降りてきなさい!」
「大丈夫ですよ、先生」
「翼があるからと言って飛べるとは限らん!」
「滑空できるようになったんですよ」
「いや、それでもダメだ、君に何かあってみろ、学校は責任を問われて私は職を失う!」
 俊彦は四階建て校舎の屋上に立っているのだ。
「飛~べ! 飛~べ! 飛~べ! 飛~べ! 飛~べ! 飛~べ!」
 校庭では生徒達がやんやと囃し立てているが、教師達、とりわけ校長は真っ青な顔をしている。
 そんな中、俊彦は思い切り良く空中に身を躍らせた。
「ウワ~~~!!!!」
「ヒェ~~~!!!!」
 生徒の歓声と校長の悲鳴が交差する中、俊彦は翼を広げて落下スピードで起こる風を捉えた。
「スゲ~~~!!!」
「ヤッタ~~~!!!」
 生徒の歓声に校長がおそるおそる顔を上げてみると……。
 俊彦は大空を舞っていた。
 旋回し、急降下してスピードをつけるとまた舞い上がり、まだ補助的にだが羽ばたいて高度を上げ、右に左に自由自在に飛びまわる。
 悲しみのない自由な空を……。

∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

 生徒がスマホで撮影したその動画がネットに流れた途端、俊彦の生活は一変した。
 芸能プロダクションが殺到したのだ。
 なにしろ世界で一人、本物の鳥人間なのだから。
 まずはCM出演。
「翼のないあなたに……○○生命」
 航空会社より早く飛びついたのは生命保険会社、校舎の屋上から落ちた俊彦が、地面の寸前でさっと翼を広げて舞い上がる映像と共にそんなナレーションを流した。
 J○Lと○N○は札束を積む争奪戦を繰り広げ、製薬会社のCMでは顔のアップと台詞まで与えられた……「風を捉えるのは気持良いけど、風邪は引きたくないよね」
  
 そしてTV出演のオファーも飛び込んで来た。
「トドメだ、覚悟しろ! 食らえ、バードアタック!」
 俊彦は真っ赤なボディスーツを身にまとい嘴をつけたヘルメットをかぶって悪の秘密結社が次々と繰り出す怪人を蹴散らした。
 中国からの映画出演のオファー、役どころは孫悟空と飛び比べをする鳥妖怪の役、映画はシリーズ化され、孫悟空に敗れて心を入れ替えた鳥妖怪は三蔵法師と旅を続けることになった。
 ハリウッドからもオファーが届いた、アベンジャーズの新メンバーとして。
 香港映画界からは『鳥拳』のシナリオが届けられ、フランス映画界からはシリアスな役の提案があった、なんでも地上に落ちてきた天使の愛と苦悩を描く映画だという。

 一躍世界にその名を轟かせた俊彦、だが、その人気は長くは続かなかった。
 何しろ腕がないのだから飛ぶシーン以外には見せ場が乏しい、ルックスも十人並みだし俊彦に演技の経験はなく、その天分もなかったようだ……。
 その結果、一年後にはヒーローに倒される怪人の役を演じていた。

∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

「オイ、はばたくだけじゃ飛び立てないのかよ、子供向け番組だからって適当にやってもらっちゃ困るんだよなぁ」
 一年前には下にも置かない態度で接して来ていたディレクターがあからさまに舌打ちする。
「なんとかやってみます」
「頼むぜオイ……ヨーイ、アクション!」
 俊彦は力の限り羽ばたいた、すると……なんとか身体が浮く。
 鳥人間になって二年ほどになる、しかもこの一年は飛んでばかりいた、いつの間にか羽ばたきだけで飛べる筋力がついていたのだ、それこそ必死の思いで羽ばたかなければならないが……。
「よ~し! いいぞ! もっとガンバレ!」
作品名:翼をください 作家名:ST