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短編集15(過去作品)

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 もし、男性に妻子がいて、それを知りながら苦しむ女性というのは、「耐える女性」というイメージが強い。女性側から見れば切なくはあるが、逞しく見えて、昼のドラマの設定にでもなりそうだが、私から見れば、ドロドロとしたものを感じるだけで、男女とも美しさという面では、想像に値しない。
 その点、女性に妻子があって独身男性と付き合う場合は、自分の中でいろいろな葛藤をしながら、相手の男性を想う気持ち、そしてそれに気付いていて、さらに女性を想う相手の男性の気持ち、そこに美しさを感じるのは私だけではあるまい。
 きっと男性であれば、女性に家庭がある時の不倫の方を美しく感じるのではないだろうか。
――ここまで不倫に陶酔するということは、自分には不倫願望があるのかも知れない――
 想像でたっぷり掻いた汗を気持ち悪く感じながら、いつも考えていることだ。
 だがなぜだろう? 今まで相手の顔はハッキリと想像できても、今日のように見たことがあるなどと感じたことはなかった。確か最初に想像した時に同じことを感じたような気がするが、いったいいきなりなぜなのだろう?
――きっともうひとりの自分がいて、その自分が欲していることなのだろう――
 そう思わないと、自分のことのように思えないからだ。最近でこそ、妄想を受け入れられるようになってきたが、最初はそんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
 ひょっとして離婚の原因はそこにあるのかも知れない。
 元々躁鬱症の気のある私である。二重人格ではないかという思いが無きにしも非ずだった。
 しかし、今まで気付かなかったのが不思議なくらいなのに、気付いてしまってからの私の生活は変わってしまったのであろうか?
 妄想がまるで当たり前のようになっていた。妄想する自分をもう一人の自分が冷ややかに見ている。二重人格であることを知っているのだ。しかし、普通の生活をしている自分を、妄想している自分が見ることはできない。不思議なことだった。
――普通の自分が本当の自分なのだ――
 そう思うことにしている。あくまでその方が「自分らしい」と思うからである。
「自分らしくない」自分というのは、なるべくなら否定してしまいたい。
 では自分らしくない自分とは、いったいどんな自分なのだろう?
――自分で後から考えて、嫌な気分にならない自分――
 妄想している時、鬱状態になっている時、後から考えて嫌なものである。何とも嫌いなものを飲み込んだような気持ち悪さ、胃の検診の時に飲むバリウムのような気持ち悪さ、それを感じるのである。
 私はどちらかというと、自己暗示にかかりやすい方だ。人の言葉をすぐに鵜呑みにしてしまうことも多い。
 悩み事ができた時など、一人で悩んでいても解決しない。ついつい考えが袋小路に入ってしまって、いつも同じことを考えては、結局まとまらない。時間の無駄だということになってしまうだけだ。
 だからついつい人に相談してしまう。それも寂しさもあるせいか、複数の人に相談しないと我慢できないのだ。
 しかし、これも困りもので、複数に相談するということは複数の意見があるということで、いくら似たような考え方であっても、それぞれに入る感情が違う。それを素直にすべて受けて考えていては埒が明かないと分かっていながら、結局、鵜呑みにしてしまう。それが私の悪い癖でもあるのだ。
 そんな時、私は自分がもう一人いればいいと考える。自分を戒めてくれるもう一人の自分、実に都合のいい考え方だが、きっと私以外の人にはそんな自分がいるに違いない。そして自分がよからぬ方向へと行きかけた時、しっかりと戒めてくれるのだ。
 時には無意識に…。
 それが理性といわれるものではないだろうか。
――私に理性はあったはずだ――
 淫らな想像を楽しむ自分が本当の自分ではないだろうかと悩んだこともあった。だが、発想として出てくる考えはとても自然で、少なくとも妄想している時にいやらしさを感じることはなかった。あとで襲ってくる自己嫌悪も、苦しいものではない。
――感覚が麻痺しているのかも知れない――
 それはないとは言えない。自己嫌悪に陥らずに済むのはそういった考えに基づいているからだろう。
 私には、ある行動をしている時、それを考えている自分がどこにいるか、頭に思い浮かべることができる時がある。それは印象に残っている時のことが咄嗟に頭に浮かぶのだろうが、何ら違和感などない。仕事で印鑑の「めくら打ち」をしている時など、なぜか数年前に受け持っていたお得意先の事務所が浮かんできたりする。別にそこだけが他のお得意先よりいっぱい印鑑を使用したというわけでもないのにである。
 そういえば、公園でベンチに座り、その目の前を女性がブランコを揺らしている……。そんな光景をかつて見たような記憶があった。
 今までであれば、記憶の奥から引っ張り出していたので違和感はなかったのだが、それが今日ハッキリと、
――想像していたことは、未来のことだったのだ――
 と分かることができたのだ。
 自然といえば自然にである。
 しかしなぜだろう? 今まで不思議に思っていたことが一つハッキリしたにもかかわらず、胸の中のわだかまりのようなものを、どうしても取ることができない。私の中で何ら解決したわけではないのだ。
――彼女の不倫相手というのは、私ではないだろうか?
 ヘンな妄想に入ってしまいそうな気がする。
 相手の中年男、私の未来の顔を想像すると、ピッタリとするのである。
――この公園にやってきたのも、本当に偶然だったのだろうか?
 歩いていて疲れていて、その時、たまたま目に入った公園のベンチだったはずだ。最初は、
――何と広い公園なんだろう――
 と思ったくらいにベンチが遠く感じたが、次の日に立ち寄った時は、ベンチが目の前に見えていた。
 ゆっくりと歩いていく中で大きく見えてくるベンチは、毎日微妙な色の違いを見せてくれていた。
 気分がいい時には、限りなく白に近い色で、精神的に落ち着かない時は、微妙に黄ばんで見えるのだった。
 黄色という色は明るい色である。他の原色のように重みはないが、白に次いで明るい色であることは間違いない。
 しかし、吸い寄せられる魅力もあるかも知れない。何もかも吸い込んでしまいそうなまでの白色とは違い、他の色とも反応する要素を持っている。私はこの公園のベンチで見た黄色に、目を奪われてしまっている。
――白があれば他の色に近く感じ、白がなければ白に限りなく近く感じる。しかも目に焼きついた後に見た他の色を、すべて赤系統の色に変えてしまう魔力を持っている――
 そんな黄色に私は魅せられていた。ひょっとして私は黄色を見に、ここに来ているのかもしれないと思ったくらいである。
 ベンチに座り、まわりを見る。夕焼けでもないのに真っ赤な風景に、黄昏を感じてしまっている自分に酔っている。
――そういえば、私は黄色が好きな色ではなかったな――
 黄昏ている時に、初めてそのことを思う。
 私は、赤や青のような重みのあるハッキリした色が好きだ。中途半端なことが好きではない私は、あまり特徴のない黄色という色が好きでないはずだった。
――不倫は中途半端なんだ――
 心の中で問いかける。
作品名:短編集15(過去作品) 作家名:森本晃次