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短編集15(過去作品)

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 中学卒業する頃までは、それほど落ち込むことなどなかった。あったとしても些細なことで、落ち込んでいたとは言いがたいかも知れない。きっと、落ち込みを実際に自分で感じるようになったのは、女性というものを意識し始めてからだったに違いない。
 私が女性を意識するようになったのは、どちらかというと遅い方だった。元々奥手だと言われ、友達の女性に対する話などには、無関心を装っていた。
 中学時代の男友達との話はかなり露骨なものがある。好きな連中は集まって話に花を咲かせるのだが、私はどちらかというと敬遠していた。
「お前は奥手だからな」
 まわりからそう評価されては、今さら話に加わるのも何かヘンだった。
――最初から露骨な話に入っていけばよかった――
 と何度思ったことか。そのためだろうか、余計に女性に対してのイメージが膨らんでいったのだ。
 かといって、エロ本の類を買う勇気もない。本屋でこっそり立ち読みすることはあっても、終始まわりに目を配っていて、集中できずに、却って中途半端な気持ちを残すことになった。悪循環が続いていたのかも知れない。
 学校でも男友達はそれなりにいたが、女性と話すことはあまりなかった。自分から避けていたという意識はなかったが、女性から話しかけられることもなかった。仲が良かった友達には彼女がおらず、お互いに、
――男同士がいいよな――
 と言って話していたが、それも表面上だけのことだった。気がつけばその友達にもいつの間にか彼女ができていて、次第に私を遠ざけ始めていた。
 私に、「悪いなぁ」という気持ちがあったのだろう。しかし、そういう態度は露骨に表れるもので、私には嫌らしさに写った。
 いや、彼を恨んではいけない。やつに彼女ができたことを気付かずにいた自分が悪いのだ。そう思わないと余計に自分が惨めになりそうだったが、どうしても友達との距離は少しずつ遠ざかっていった。
 そんな私だったので、彼女ができたのも大学に入ってからだった。純情なカップルだったに違いない。彼女もそれまでに男性と付き合ったことがないということだったし、私はそれだけで有頂天になっていた。彼女から好意を持たれていることに誇りすらあった。
 私は人を好きになると一途な方だ。彼女も同じだと思って疑わない。デートにしても、遊園地などといった、まるで中学生が行くようなところばかりだったのだ。
 初めて手を繋ぐ時が一番緊張したであろうか、その後何回かのデートの後に唇を重ねたが、手を繋いだ時に感じた緊張感ほどではなかったような気がする。それだけ、純粋だったということだろう。
「あなたと一緒にいると落ち着くの」
 これが彼女の口癖だった。
「いつでもそばにおいで」
 その言葉に嫌らしさはなく、実に自然に口から出た言葉だった。それだけは、今でも間違っていないと思っている。
 しかし、男と女の違いだろうか、私に従順だと思っていた彼女に少し違和感を感じ始めていた。いつになくソワソワすることが多くなり、話をしていても
――心ここにあらず――
 といった感じの時が多くなったのだ。さすがに鈍感な私でも気になりだしていた。
 元々、口数が少なく、人見知りするタイプの彼女は、いつも微笑んでいることが多かった。友達といても、一人会話もなく、その場に浮いていることがあったかも知れない。
 しかし、そんな彼女は私だけとは、会話が続いた。会話の内容は取るに足らないくだらない話が多かったかも知れないが、アベックというもの、そんなものだろうと思っていた私には、別に気になることはない。それどころか、
――彼女が楽しければ、それでいいのだ――
 と思っていたことに違いなかった。
 彼女にとっての私はどうだったのだろう?
 最初はそれでもよかったかも知れないが、ここからが男女の違いなのか、私では物足りなくなったのかも知れない。
 ある日、彼女の噂を偶然、小耳に挟んだことがある。
「どうやら、好きな人ができたみたいね」
「え、付き合っている人いるじゃない」
「ええ、でも分かるのよ私には。女の直感」
 最初はその話が信じられなかった。しかし、意識しないようにすればするほど気になってくるもので、噂を信じないようにしようと思う反面、彼女の行動をそのつもりで見てしまっていた。
 そんな自分が嫌だった。いくら噂が気になるとは言え、彼女のことを疑うような自分の気持ちが許せなかった。しかしこれも男として一人の女性を気にしているということで、自らを納得させていたのだ。
 果たして噂は本当だった。隠せば隠すほど、疑って見る私の目には、真実が露見していた。自ら後悔してしまったくらいである。
――なぜ、聞き逃さなかったのだろう――
 しかし、後のまつりである。
 そこで、初めて自分が一途であることを悟った気がした。
――彼女に誰か好きな人がいたとしても、僕は彼女が好きなんだ――
 相手に対する気持ちが、自分の中で新鮮に感じられる。彼女の中にいた自分の存在は変わらないだろうことを確信していたのかも知れない。それだけに少しずつ入ってくる男の心をはじき出せるのは、自分だけだという自負もあった。
 しかし、さすがに会話はぎこちなかった。彼女はきっと私が、好きな人に気付いているということを知らないだろう。心の中での葛藤が彼女の中に見え隠れする。それが私には分かる気がした。
 果たして、そうだったのだろうか?
 自分でもよく分からない。自分のことを考えてくれている彼女よりも、他の人を考えている彼女の方がハッキリと分かる。その時の彼女の顔は、私が今まで知っている彼女の顔とは少し違っていた。
――女性は人を好きになればきれいになる――
 と、よく言われる。私もその言葉には同感であるが、彼女の他の人を思っている顔が、本当に彼女にとってきれいな顔であるか、疑問だけが残った。
 それでも私は彼女を思う。それが一途というものではないのだろうか。
 そんな気持ちを私は長所だと思っている。それは今でもずっと思っていることで、これからも思い続けるだろう。しかし、それがゆえに、苦しいことがなくならないのかも知れない。
――切ない想い――
 そこには代償のようなものがあるのかも知れない。

 ブランコを見る私の目は、そこから離れることはなかった。立ち上がろうという気持ちがないではないが、それをすることが本当に自分の意志であるか、疑問が残る。そんな状態で身体が動くほど、私の神経は単純ではなかった。一つのことに集中すると、他のことで自然に逆らうようなことができる私ではなかった。
 目は完全にブランコに集中している。思考能力が果たしてその時にあったかどうか疑問であるが、彼女を見ていていろいろなことが想像できたのは、自分でも不思議なことだった。
 元々、人や情景を見ていろいろ想像してみるのは好きな方である。好奇心旺盛なのかも知れないが、観察するのが好きなんだろう。特にボーッとしている時などその傾向が強いらしく、それだけ、
――気持ちに余裕があるのだろう――
 と自分なりの勝手な解釈をしていた。
 私はどちらかといえば縁起を担ぐ方かも知れない。
作品名:短編集15(過去作品) 作家名:森本晃次